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【色平哲郎氏のご紹介】第 5 次アーミテージ・ナイ報告書

2021-03-25 17:38:14 | 転載
写真:【東京新聞】トランプ大統領で安倍政権のアーミテージ報告書「完コピ」路線はどうなる?(原発推進・秘密保護法・武器輸出・安保法・TPP・日韓合意など)
投稿日:2017/01/21/ 11:23より

【アメリカ】第 5 次アーミテージ・ナイ報告書
国立国会図書館 調査及び立法考査局 海外立法情報課 西住 祐亮

*2020 年 12 月 7 日、アーミテージ元国務副長官とナイ元国防次官補を中心とする研究グルー プの「2020 年の日米同盟」と題する報告書が公表された。報告書は、日本側の近年のリーダ ーシップを高く評価した上で、3 項目から成る提言を示している。

1 概要

2020年12月7日、戦略国際問題研究所(CSIS)が、リチャード・アーミテージ(Richard Armitage)
元国務副長官とジョセフ・ナイ(Joseph Nye)元国防次官補(国際安全保障問題担当)を中心 とする研究グループの「2020 年の日米同盟:グローバルな課題に取り組む対等な同盟(U.S.- Japan Alliance in 2020: An Equal Alliance with a Global Agenda)」と題する報告書を公表した1。両 者による日米同盟についての報告書は「アーミテージ・ナイ報告書」という呼称で知られてお り2、この度は 5 回目の公表となった。

今回の報告書は、序論と結論を除くと、大きく 3 つの部分(提言)から構成されている。第 一は「安全保障同盟を発展させる(Advancing the Security Alliance)」、第二は「パートナーシ ップと連合を拡大する(Expanding Partnership and Coalitions)」、第三は「経済及び技術協力を 強化する(Strengthening Economic and Technology Cooperation)」である。

2 序論

日米同盟については、不確実性に満ちた時代の中で、「安定と継続をもたらす最も重要な存在の一つ」であると指摘した。また、日米同盟の重要性については、米国内で超党派の支持が あるとの見方を示し、分割政府3の状況下になっても、同盟を発展させることができるであろう とした。

日本側の姿勢については、急激に厳しさを増す安全保障環境と、米国の首尾一貫しないリー ダーシップによって、「主導的ではないにしても対等な役割」を日米同盟の中で担うようにな ってきていると評価した。また、こうした日本側の変化は、安倍晋三前首相によるところが大 きいとも指摘し、具体的には、憲法解釈変更による集団的自衛権の容認や、包括的・先進的 TPP 協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership: CPTPP)4を妥結に導 いたことなどを例示した。

加えて、日本のリーダーシップは、米国とインド太平洋地域の利益にも資するものであると指摘し、日本のリーダーシップ維持に向けて、菅義偉首相が努力することを支持するとした。 その他、日米同盟に対する支持が、日米両国民の間で依然として高いことなども紹介した。

3 「安全保障同盟を発展させる」

米国にとって日本が「不可欠かつ以前より対等な同盟国」になっただけでなく、「アイデア考案者(idea innovator)」にもなったと指摘し、具体的には、日本が「自由で開かれたインド 太平洋」構想5を考案したことなどを例示した。また、米国が日本に対して外圧を加えると指摘 された時代から状況は一変し
、日本のリーダーシップが目立つようになっているとも指摘した。

中国については、「日米同盟にとって最大の安全保障上の挑戦」であると指摘した。具体的 な提言としては、日米安全保障条約(第 5 条)の尖閣諸島への適用拡大を再確認することなど を提言した。また、中国が台湾への軍事的・政治的圧力を強めていることを念頭に、この問題 に関する米国の懸念を、日本が共有する重要性も指摘した。

北朝鮮については、「地域が抱える第二の懸案事項」であると指摘した。北朝鮮の非核化に ついては、短期的には非現実的であるが、長期的な目標であり続けるとした。また、情報・防 衛分野に関する日米韓協力を強化する重要性も指摘した。

防衛予算(国防予算)については、[増額が難しい]両国の国内的制約を踏まえ、日米間の 更なる調整が重要になるとした。共同技術開発や、同盟の効率化の必要性を指摘し、例として、 ミサイル防衛に関する重複投資の回避などを提言した。また、日本の防衛予算については、「国 内総生産(GDP)のたった 1%」で、中国の国防予算
に比べると「ごく僅かな額(fraction)」 であると指摘した。

その他、既存の「ファイブ・アイズ(Five Eyes)」6に日本を加え、「シックス・アイズ(Six Eyes)」の枠組みを目指すことや、在日米軍駐留経費負担について、米国ができるだけ早期に 日本と交渉をまとめることも提言した。

4 「パートナーシップと連合を拡大する」

米国と利益・価値を共有する諸連合のネットワークの中で、日米同盟が「中核(nucleus)」になるべきであるとした。

日米豪印戦略対話(Quadrilateral Strategic Dialogue: Quad)については、日本主導で有望な役割を担うようになったと評価する一方、他の地域機構と競合するのを回避するために、開かれ たもの(inclusive)にしなくてはならないとした。

日韓関係については、ネットワーク化された諸連合の構築を目指す上で、長引く日韓の緊張 (continuing tension)が、最大の障害になっているとした。他方、菅義偉政権発足後には、関係 改善に向けた漸進的進歩(incremental progress)も見られると指摘し、[2021 年夏に予定され る]東京五輪に向けた協力などを通して、日韓が関係改善に向けた新たな好機を活かすべきであるとした。

5 「経済及び技術協力を強化する」

経済及び技術協力を深化させることが、日米同盟にとって根本的に重要であるとした。貿易・技術に関するルールの存在が、インド太平洋地域でも南シナ海でも重要であると指摘し、この 分野に関して、日米は緊密に連携しているとした。また、新型コロナウイルスの世界的拡大は、 信頼できる安全な供給網が、日米にとって重要であることを立証したと指摘した。

CPTPP については、経済ルール作りの面で日本とともにリーダーシップを発揮するために、 米国は CPTPP に加入すべきであるとした。加入が国内政治的に難しいことを認める一方、米国 の繁栄と安全に対する、より大きなリスクを踏まえると、米国の加入は必須であると指摘した。 また、バイデン(Joe Biden)新政権が、CPTPP の加入に向けて、条件の変更を望むのは「理に かなう」と指摘する一方、こうした変更は現加盟国との交渉を通じて調整すべきで、何よりも 交渉に向けた米国の意欲を示すことが最初に必要であるとした。さらに、米国の CPTPP 加入が、 世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)改革を目指す上でも有意義であるとした。

デジタル・ガバナンスについては、世界のインターネットが 3 つのレジーム(米国、中国、 EU)に分断されつつあるとの認識を示した上で、日米デジタル貿易協定(U.S.-Japan Digital Trade Accord. 2019年9月合意)等を土台に、ルールや規範を世界全体に広げる重要性を指摘した。 また、2019 年 6 月の G20 大阪サミットで、日本がリーダーシップを発揮して、デジタル・ガバ ナンスに関する合意を成立させたことも高く評価した。

人工知能(artificial intelligence: AI)や5Gネットワークを始めとする新技術については、日 米が連携して、この分野に関する国際ルールを、相互運用可能かつ開かれたものにする必要が あるとした。5G については、21 世紀の知識経済の中で鍵となる分野であるとした上で、日米 はこの分野での協力を優先すべきであると提言した。具体的には、日米両政府が、ファーウェ イ(華為)に代わる選択肢を作ろうとする民間企業の試みを促進すべきであるとした。また日 本が、開かれた無線アクセスネットワーク(Open Radio AccessNetwork: O-RAN)の開発を牽引 する存在であると指摘した上で、これが、垂直統合型の華為モデルに代わる選択肢になる可能 性があるとした。

インド太平洋地域のインフラ・開発支援については、日本のリーダーシップが見られるもう 一つの分野であるとした上で、新設された米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation: USDFC)が、日本の国際協力銀行やアジア開発銀行と連携して、地域のイ ンフラ需要に対応する必要性を指摘した。
また、韓国やオーストラリアといったその他の国々 と、この分野に関する調整を行うことも、日米の指導者には求められるとした。

さらに第 5 次報告書は、エネルギーと気候変動も、日米同盟にとって重要な分野になると指 摘した。具体的には、日本が石炭火力への投資を抑制する必要性や、原子力及び天然ガス分野 での協力を土台に、日米がクリーンエネルギーに関する協力を拡大する重要性を指摘した。

6 結論

日米同盟をより対等なものに発展させることが、地域及び全世界の課題を解決する上で重要になると確認し、価値の促進などの面では、既に日本がリードする側になっていると指摘した。 また、日本を「米国の利益・価値と最も調和する同盟国」であると形容した上で、多極化を進 める世界において、日米同盟は世界を牽引する立場にあるとした。


* 本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、2021年1月8日である。[ ]内は筆者による補記。

1 “U.S.-Japan Alliance in 2020: An Equal Alliance with a Global Agenda,” Center for Strategic an
d International Studies, December 7, 2020.
<
https://csis-website-prod.s3.amazonaws.com/s3fs-public/publication/201204_Armitage_Nye_US_Japan_All
iance_1.pdf
>

2 2018 年 10 月に公表された第 4 次報告書については、西住祐亮「第 4 次アーミテージ=ナイ報告書」『外国の立法』
No.278-1, 2019.1, pp.32-35. を参照。

3 大統領の政党、上院の多数党、下院の多数党が全て一致する状態を統一政府(unified government)と呼び、そうでない状態を分割政府(divided government)と呼ぶ。

4 日本のメディアでは「米国抜きのTPP」、「TPP11」といった呼称が一般的である。

5 構想の中身については、「自由で開かれたインド太平洋」外務省, 2020.8. を参照。

6 諜報活動分野での連携に関する協定であり、米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5か国に よって構成される。

https://bit.ly/3ckUdBK  外国の立法 No.286-2(2021.2)

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