【広原盛明のつれづれ日記】
2021-10-05
〝ポスト菅政権〟の自民党戦略、自民党は総裁選挙、新政権樹立、解散・総選挙で局面打開を図った、岸田内閣と野党共闘(その1)
岸田新首相は10月4日、新内閣発足後の記者会見で、大規模なコロナ・経済対策を打ち出すためにも早期に国民の信任を得たいとして、今月21日に任期満了を迎える衆議院の解散・総選挙に関して、14日解散、19日公示、31日投開票との日程を示した。菅首相が退陣表明をしたのは僅か1カ月前の9月3日のこと、それから2週間後の17日には自民総裁選が始まり、29日には岸田文雄氏を新総裁に選出。10月4日召集の臨時国会で第100代首相に選出された岸田氏はその日、10日後に衆院を解散し、次期衆院選の投開票日を9月31日にすることを明らかにしたのである。
日経新聞(10月5日)は、「衆院選 異例の短期決戦、高い支持率保ち投開票狙う」との見出しで、「首相就任から1カ月弱の異例の短期決戦になる。政権発足時に期待する高支持率を維持したまま投票日を迎える狙いだ」と指摘する。過去の首相指名から解散までの日数は、第1次鳩山内閣46日、第1次森内閣58日、第2次吉田内閣70日などだったが、岸田内閣は僅か10日と格段に短い。野党各派からは「奇襲」「乱暴」「選挙優先」などの批判の声が渦巻いている。
しかし私は、この日程は練りに練った自民党の〝ポスト菅戦略〟の一環だと考えている。内閣支持率が20%台にまで落ちた菅首相が、総裁選前の解散・総選挙で事態の打開を図り、政権維持を画策したのに対して、自民各派は結束して手も足も出ない状態に追い込んだ。そこから衆院議員の任期切れを目前にした〝ポスト菅戦略〟がスタートしたのである。その要諦は、総裁選と新政権づくりをお祭り騒ぎにしてイベント化し、国民の眼を釘付けにして菅内閣の陰鬱なイメージを払拭することだった。
マスメディアとりわけテレビ各社の果たした役割は絶大だった。オリンピックの時もそうだったが、テレビ番組は自民総裁選に独占され、候補者4人は一躍「時の人」になった。彼・彼女らが朝から晩までテレビに露出することで、菅首相はまだ「現役」であるにもかかわらず急速に影が薄くなっていった。菅首相は、退陣表明したその日から事実上「過去の人」となり、もはや誰にも顧みられることのない存在になったのだ。世襲議員でないため派閥を持たず(持てず)、危機に際しても支えてくれる側近がいなかった「たたき上げ」の政治家は、こうして政治の表舞台から跡形もなく姿を消すことになった。菅氏は、選挙地盤の横浜においても今後議席を維持できるかどうかわからない。秋田の田舎に帰る日もそう遠くない――と囁かれているのはそのためだ。
これに対して、立憲枝野代表をはじめとする野党陣営の構えはどうか。私はこれまでも繰り返し指摘してきたように、枝野氏には〝ポスト菅戦略〟がなかったと思う。彼はコロナ禍の進行とともに日々低下していく内閣支持率を横目で見ながら、次期衆院選での勝利(単独過半数)を夢見ていた。国民民主党や社民党との合併によって百数十人の国会議員を擁する「最大野党」に伸し上がった立憲民主党は、「夢よもう一度」とばかり、政権交代が近づきつつあるとの情勢分析に凝り固まっていた。枝野氏は、菅氏の官房長官時代の凄腕を長年にわたって見てきただけに、菅政権がかくも脆く崩壊するとは想像すらできなかった。枝野氏は、菅首相が最期まで政権にしがみついて総選挙に突入し、有権者の総スカンを食らってタナボタ式に政権が転がり込むと期待(楽観)していたのである。
このため、枝野氏は立憲など野党各党の政党支持率が地を這っているにもかかわらず、総選挙対策としての政策づくりの準備をすることもなければ、野党共闘を実現するために政策協定や選挙協力の準備をすることもなかった。今年4月以来、野党各党との協議は事実上放置され、連合や国民民主党などとの話し合いは進めても、共産党や社民党との協議はいっこうに進まなかった。そこにきて菅首相の突如の退陣表明によって事態は一変した。「驚天動地」ともいうべき世論の変化が起こり、菅政権に代わる自民新政権への期待が高まり、野党各党の影は一層薄くなったのである。
岸田内閣が安倍・麻生の「丸抱え政権」であることは、新聞をまともに読む人なら誰でも知っている。しかし、国民の多くはそれほど新聞を熱心に読まないし、若い人たちも最近ではテレビ番組も見ない人が多くなったと聞く。イベント化された情報が飛び交い、その中で派手なパフォーマンスとともにこれまで見たこともない政治家が露出するようになれば、自民政治が刷新されたと錯覚しても不思議ではない。岸田内閣が「初入閣」のメンバーを数多く揃えたのも、その「表紙効果」を期待してのことだ。中身は旧態依然でも構わない。表紙を変えれば中身まで新しくなったように見える。自民党にとってはそれだけでよいのである。
しかし、時間を経過してくると読者は頁をめくるかもしれない。表紙と目次が新しくても中身が古ければすぐに飽きられる。「表紙効果」がさめないうちに総選挙を実施しなければならない――。これが、自民党の〝ポスト菅戦略〟である。これから解散まで僅か10日足らず、そして総選挙は今月末に行われる。有権者は果たして新内閣の中身に興味を持つのか、それとも表紙だけで満足するのか、野党各党はこれまでにない選挙対策を迫られている。(つづく)
hiroharablog 2日前
2021-10-05
〝ポスト菅政権〟の自民党戦略、自民党は総裁選挙、新政権樹立、解散・総選挙で局面打開を図った、岸田内閣と野党共闘(その1)
岸田新首相は10月4日、新内閣発足後の記者会見で、大規模なコロナ・経済対策を打ち出すためにも早期に国民の信任を得たいとして、今月21日に任期満了を迎える衆議院の解散・総選挙に関して、14日解散、19日公示、31日投開票との日程を示した。菅首相が退陣表明をしたのは僅か1カ月前の9月3日のこと、それから2週間後の17日には自民総裁選が始まり、29日には岸田文雄氏を新総裁に選出。10月4日召集の臨時国会で第100代首相に選出された岸田氏はその日、10日後に衆院を解散し、次期衆院選の投開票日を9月31日にすることを明らかにしたのである。
日経新聞(10月5日)は、「衆院選 異例の短期決戦、高い支持率保ち投開票狙う」との見出しで、「首相就任から1カ月弱の異例の短期決戦になる。政権発足時に期待する高支持率を維持したまま投票日を迎える狙いだ」と指摘する。過去の首相指名から解散までの日数は、第1次鳩山内閣46日、第1次森内閣58日、第2次吉田内閣70日などだったが、岸田内閣は僅か10日と格段に短い。野党各派からは「奇襲」「乱暴」「選挙優先」などの批判の声が渦巻いている。
しかし私は、この日程は練りに練った自民党の〝ポスト菅戦略〟の一環だと考えている。内閣支持率が20%台にまで落ちた菅首相が、総裁選前の解散・総選挙で事態の打開を図り、政権維持を画策したのに対して、自民各派は結束して手も足も出ない状態に追い込んだ。そこから衆院議員の任期切れを目前にした〝ポスト菅戦略〟がスタートしたのである。その要諦は、総裁選と新政権づくりをお祭り騒ぎにしてイベント化し、国民の眼を釘付けにして菅内閣の陰鬱なイメージを払拭することだった。
マスメディアとりわけテレビ各社の果たした役割は絶大だった。オリンピックの時もそうだったが、テレビ番組は自民総裁選に独占され、候補者4人は一躍「時の人」になった。彼・彼女らが朝から晩までテレビに露出することで、菅首相はまだ「現役」であるにもかかわらず急速に影が薄くなっていった。菅首相は、退陣表明したその日から事実上「過去の人」となり、もはや誰にも顧みられることのない存在になったのだ。世襲議員でないため派閥を持たず(持てず)、危機に際しても支えてくれる側近がいなかった「たたき上げ」の政治家は、こうして政治の表舞台から跡形もなく姿を消すことになった。菅氏は、選挙地盤の横浜においても今後議席を維持できるかどうかわからない。秋田の田舎に帰る日もそう遠くない――と囁かれているのはそのためだ。
これに対して、立憲枝野代表をはじめとする野党陣営の構えはどうか。私はこれまでも繰り返し指摘してきたように、枝野氏には〝ポスト菅戦略〟がなかったと思う。彼はコロナ禍の進行とともに日々低下していく内閣支持率を横目で見ながら、次期衆院選での勝利(単独過半数)を夢見ていた。国民民主党や社民党との合併によって百数十人の国会議員を擁する「最大野党」に伸し上がった立憲民主党は、「夢よもう一度」とばかり、政権交代が近づきつつあるとの情勢分析に凝り固まっていた。枝野氏は、菅氏の官房長官時代の凄腕を長年にわたって見てきただけに、菅政権がかくも脆く崩壊するとは想像すらできなかった。枝野氏は、菅首相が最期まで政権にしがみついて総選挙に突入し、有権者の総スカンを食らってタナボタ式に政権が転がり込むと期待(楽観)していたのである。
このため、枝野氏は立憲など野党各党の政党支持率が地を這っているにもかかわらず、総選挙対策としての政策づくりの準備をすることもなければ、野党共闘を実現するために政策協定や選挙協力の準備をすることもなかった。今年4月以来、野党各党との協議は事実上放置され、連合や国民民主党などとの話し合いは進めても、共産党や社民党との協議はいっこうに進まなかった。そこにきて菅首相の突如の退陣表明によって事態は一変した。「驚天動地」ともいうべき世論の変化が起こり、菅政権に代わる自民新政権への期待が高まり、野党各党の影は一層薄くなったのである。
岸田内閣が安倍・麻生の「丸抱え政権」であることは、新聞をまともに読む人なら誰でも知っている。しかし、国民の多くはそれほど新聞を熱心に読まないし、若い人たちも最近ではテレビ番組も見ない人が多くなったと聞く。イベント化された情報が飛び交い、その中で派手なパフォーマンスとともにこれまで見たこともない政治家が露出するようになれば、自民政治が刷新されたと錯覚しても不思議ではない。岸田内閣が「初入閣」のメンバーを数多く揃えたのも、その「表紙効果」を期待してのことだ。中身は旧態依然でも構わない。表紙を変えれば中身まで新しくなったように見える。自民党にとってはそれだけでよいのである。
しかし、時間を経過してくると読者は頁をめくるかもしれない。表紙と目次が新しくても中身が古ければすぐに飽きられる。「表紙効果」がさめないうちに総選挙を実施しなければならない――。これが、自民党の〝ポスト菅戦略〟である。これから解散まで僅か10日足らず、そして総選挙は今月末に行われる。有権者は果たして新内閣の中身に興味を持つのか、それとも表紙だけで満足するのか、野党各党はこれまでにない選挙対策を迫られている。(つづく)
hiroharablog 2日前