講演~新井秀雄 (元国立感染症主任研究員)
「バイオ時代の感染症」
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講演者のプロフィール
新井秀雄さん
1942年静岡県生まれ。北海道大学獣医学部卒。獣医学博士。
国立感染症研究所主任研究官として百日咳、溶血連鎖球菌などの研究に従事する。長年、所内からバイオハザードの危険性を指摘し 、予研=感染研裁判では、住民側証人として法廷で証言を行う。
ドキュメンタリービデオ『科学者として』(本田孝義監督、1999年)に出演。同作は東中野BOXなど映画館で公開された。
2000年、自らの心情を綴った『科学者として』(幻冬舎刊)を出版。同書などの記述について、所内で厳重注意処分を受ける。
2001年3月、処分撤回を求めた民事訴訟を提訴、2007年敗訴確定。2003年3月末日、定年退官。
バイオハザード予防市民センター幹事。共著に『教えて!バイオハザード』(2003年、緑風出版刊)がある。
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講演の内容
はじめに
芝田進午先生が亡くなられて十四年になる。私は芝田先生に、人間にとって大事なものは何かを教えられた。核時代の現在は同時にバイオ時代でもある。
1 感染とは
バイオ時代の特徴である感染とは、なにかを学問的原論てきに考えると、三つの要素があげられる。
①感染を受ける側の状態として、体力や家庭の状態がある。
②病原体がもつ病原性。静止的なものではなくダイナミックなものである。
③とりまく感染の温度や乾湿
放射能の影響で宿主の変化もあげられる。
2 細菌
細菌とは、存在がわかったのは顕微鏡が開発されてはじめて明らかになったものである。実態として、病原体として把握されるようになった。メイメイフックにより、二百数十倍の倍率の顕微鏡が開発された。
17世紀、1600年代に、血液は水たまりの水のようなものとして学会に報告された。細菌が目に見えるようにしたのが、19世紀のパストゥールである。彼はバイオ技術を開拓していった。
ドイツ人コッホは液体培養を固体培養に発展させた。液体培養、固体培養、純粋培養、それぞれ特有の培養が進められていった。
細菌は19世紀終わりまでにはほとんどの細菌が発見された。20世紀に入ってから見つかった菌もある。
3 ウイルス
ウイルスは細菌とは異なり、顕微鏡で見えない。1mmの10分の1までなら人間の目で見える。1932年に開発された電子顕微鏡、1959年にようやく超遠心器が開発されて、一気にウイルスの世界があきらかになってきた。
スペイン風邪は1918年に大流行した。ウイルスによっておきたスペイン風邪は、四千万人から五千万人が死亡した。ウイルスは六億人に感染した。名前は「風邪」がつくので、認識しにくいが、中世に大流行して恐怖感をもって恐れられた疾病のように、致命的な大流行の悲惨さをもっていた。
時々新しいウイルスが発見される。狂牛病はウイルスより小さいタンパク質によってひきおこされる。ウイルスは物質としてとらえられる。
4 バイオ時代
現代は遺伝子操作が生命に関わっている生命時代である。
1953年にはDNAの二重螺旋が発見された。1967~1968年には、遺伝子組み換えがなされた。1975年には、研究をすすめるための倫理規制が決められ。研究者たちのモラルの根深い様々な問題が根源的なものとして問われている。
封じ込め施設は宇宙記述の開発に及ぶ。ポリメタル塩酸構造(PCR)が198年に開発、1900年にアメリカ人の遺伝子の研究が始められ、2000年にはヒトのゲノムの解析、1970年以降の感染症の新たな問題の発生にWHOは1990年に新しい感染症を「新興感染症」として定義した。遺伝子組み換え技術が、バイオ時代を特徴付け、新たな社会的課題となっている。
1980年代のエイズ、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)=「サーズ」やエボラ出血熱などが、遺伝子組み換え技術と関係しているのではないかと研究者の中からも一般からも懸念がもたれている。
エイズ
2012年にアフリカでは2500万人、東アジアでは88万人。ちなみにエボラ出血熱の感染者は2万5千人である。東アジアにおけるエイズは増える傾向にある。日本では正規のHIV(後天性免疫不全症候群)は1200人、エイズ感染者は484人。オセアニア州ではサーズは、2002年に中国で始まった。2003年6月に8400人の患者と800人の死亡者が出た。ところがその後のサーズの患者はいないとのこと。中国のバイオ研究所ではサーズは数人。バイオテロ政策を入れ、バイオセキュリティの発展によると言われている。
エボラ出血熱は病原性が強い。新興感染症として1976年にエボラ出血熱がスーダンで発見された。突発的な流行が10回出たが、2013年には西アフリカでエボラ出血熱が流行した。死者の対応についても、火葬する国もあればかつての戦前日本のように埋葬する国もある。「場の問題」が重要である。
5 P4施設と国際伝染病
日本では武蔵村山市に国立感染症研究所分院として、対応予定の場所はあるが、きわめて伝染性の強度の伝染性疾患に対応するP4施設はない。
国際伝染病の扱いについては重要な論点がある。
研究目的であっても、強力な伝染性をもつウイルスの患者にきちんとした治療をおこなうには、その疾病の高度の医療的対応ができる国家と連絡をとりあい専門的な対応が大切である。検疫の段階で阻止することと国際的な共同研究の協力態勢をとることとがあわせて必要である。
MERSは急性の疾病で450人の死者を出している。韓国ではMERSマーズはSARSサーズよりも病原体は弱い。体力のおちていて基礎疾患のある人には警戒がいるが、専門家の知見も参考にして対応することが必要である。
ふたつきほど前には、50代以上では60~70才代で7,8人が80才以上では3人が死んでいる。高齢者に死者が集中しているが、特別に恐れる疾病ではない。
テング熱も、あれほど去年の夏日本を震撼させたが、今年は死者も出ていないし、感染者は82人で昨年の56人である。検査を受ける人が多いことも、病気の重篤度は低い。さらにカからウイルスが出ていることが報告されていない。
6 バイオハザード
抗生物質の多用は、病原体を鍛える。抗生物質が効かないウイルスが増えている。遺伝子組み換え時代を念頭に感染症を考えることが大切である。インフルエンザのウイルスは、以下の例から考える課題をもつといえよう。西アフリカで生物兵器の巨大な実験場がつくられた。生物兵器の開発のために。現代の感染症は生活の様式に応じて、生物の様式に応じて、ひとつひとつ冷静な対応をしていくべきだろう。
核時代のなかのバイオ時代は、世界の社会的実態と密接である。戦争によって化学兵器が開発され大量に使われることは、生物災害(バイオハザード)と関連している。社会的貧困は、疾病に陥った世界中の民衆の医療・保健衛生・福祉を劣化させる。
戦争と貧困を減らすよう、なくすように取り組むことが、バイオ時代の感染症を根絶するひとつの、そして根本的な私たちの課題である。
(2015年【核時代70年】6月20日午後2時~ 於新宿区牛込箪笥区民ホール)
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