改憲派「3分の2」時代を迎えて(その150)
2019-04-14
2019年4月7日の大阪ダブル選挙投開票日から1週間、選挙の全貌が次第に明らかになってきた。統一地方選の後半が控えているので各党の選挙総括はこれからだが、野党各派は総括作業に苦しむのではないか。それほど見事な負けっぷりであり、単なる負け惜しみのコメントだけではすまされないからだ。まずは、知事選と大阪市長選の結果を地域別に見よう。以下は、その概要である。
(1)知事選では、政令市(大阪市、堺市)、府下31市、同10町村のいずれを取って見ても吉村候補(維新)が小西候補(自公、他)をほぼ6:4の割合で圧倒した。大都市から町村に至るまで維新票が平均して6割(強)を占めたことは、維新が浮動票の「風」に乗っているのではなく、安定した固定票によって支えられていることを示している【表1】。
(2)大阪市長選では、衆院選挙区別に見ると若干の差はみられるもの、いずれの選挙区においても松井候補(維新)が過半数の得票で柳本候補(自公、他)を大きく引き離した。また、大阪市における維新票は、知事選70万票(6割強)、市長選66万票(6割弱)でその差がきわめて少ない。「入れ替え出馬」という奇策が「知事・市長セット投票」という有権者の選択行動に結びつき、事前に不利が予想されていた市長選情勢を覆す結果となったのである【表2】。
【表1.大阪府知事選、市町村別得票数・得票率】
吉村洋文(維新) 小西禎一(自公) 投票者数(含無効票)
大阪市 703,329(60.9%) 436,195(37.8%) 1,155,316(100%)
堺市 203,620(59.5%) 133,252(39.0%) 342,102(100%)
31市 1,309,216(65.6%) 660,218(33.1%) 1,996,038(100%)
10町村 49,938(65.3%) 24,535(32.1%) 76,451(100%)
計 2,266,103(60.9%) 1,254,200(37.8%) 3,569,907(100%)
【表2.大阪市長選、衆院選挙区別得票数・得票率】
松井一郎(維新) 柳本顕(自公) 投票者数
衆院1区(中央・西・港・天王寺・浪速)122,685(59.1%) 81,927(39.5%) 207,537(100%)
衆院2区(阿倍野・東住吉区・平野) 106,605(53.9%) 88,803(44.9%) 197,897(100%)
衆院3区(大正・住之江・住吉・西成) 106,301(53.2%) 90,710(45.4%) 199,902(100%)
衆院4区(北・都島・福島・東成・城東)149,947(61.1%) 91,876(37.5%) 245,240(100%)
衆院5区(此花・西淀川・淀川・東淀川)124,583(58.4%) 85,321(40.0%) 213,204(100%)
衆院6区(旭・鶴見) 50,698(56.1%) 38,214(42.2%) 90,372(100%)
計 660,819(57.2%) 476,351(41.3%) 1,154,152(100%)
次に、府議選、市議選の結果の傾向についてである。前回統一地方選における両選挙の党派別得票数をまだ入手していないので詳細な比較はできないが、総じて大阪は府議選、市議選ともに革新・リベラル勢力が(著しく)後退しており、かっての支持層であった無党派層の大半が維新に流れているとみられる。
(1)府議選、市議選の党派別得票数は、維新が府議選では過半数、市議選ではそれに近い比重を占めて圧倒的な存在を示した。これに対して自民は両選挙とも2割前後、共産はその半分の1割前後、公明は府議選では1割、市議選では1.5割強であり、立民は影が薄い。【表3】。
(2)府議選は、定数1の選挙区が全53選挙区の6割近い31選挙区を占め、第1党派が議席を独占する傾向が強い(いわゆる「小選挙区制」の影響)。維新は、前回選挙の1人区で自民から議席を奪って躍進したが、今回は31選挙区で26議席(8割強)の議席を獲得し、また定数2以上の選挙区でも第1党の位置を譲らなかった。その結果、維新は前回の40議席に対して51議席を獲得し、過半数を制したのである。これに対して公明は現状を維持したものの、自民は9議席を失って15議席に後退した【表4】。
(3)大阪市議選は定数1の選挙区がなく、定数2が5選挙区(2割)、定数3以上が19選挙区(8割)と事実上の中選挙区制である。その影響で府議選のように大きな議席変動が起こることは少ないとされていたが、それでも今回は維新の躍進で共産が9議席から4議席へ半減(以上)するという激変が生じた。共産は市議会運営においてもこれまで無視できない影響力を発揮してきただけに、今回の大幅減によって議会運営に構造的な変化が起こることも予想される【表5】。
【表3.大阪府議選、大阪市議選、党派別得票数・得票率】
維新 自民 公明 共産 立民 無所属 計
府議選 1,530,336 698,403 311,332 243,270 58,695 173,507 3,017,349
(%) 50.7 23.1 10.3 8.0 1.9 5.7 100.0
市議選 499,275 190,951 173,045 111,462 38,367 43,976 1,058,685
(%) 47.1 18.0 16.3 10.5 3.6 4.1 100.0
【表4.大阪府議選、定数別、党派別議席】
維新 自民 公明 共産 立民 無所属 計
定数1(31選挙区) 26 3 ― ― ― 2 31
定数2(15選挙区) 15 7 8 ― ― ― 30
定数3(2選挙区) 2 2 2 ― ― ― 6
定数4(4選挙区) 7 2 4 1 1 1 16
定数5(1選挙区) 1 1 1 1 ― 1 5
計(53選挙区) 51 15 15 2 1 4 88
改選前 40 24 15 2 ― 3 88(欠員4)
【表5.大阪市議選、定数別、党派別議席】
維新 自民 公明 共産 無所属 計
定数2(5選挙区) 5 2 2 ― 1 10
定数3(9選挙区) 15 6 5 ― 1 27
定数4(5選挙区) 10 3 5 ― 2 20
定数5(4選挙区) 8 4 4 4 ― 20
定数6(1選挙区) 2 2 2 ― ― 6
計(24選挙区) 40 17 18 4 4 83
改選前 33 21 19 9 2 86(欠員2)
今回の大阪ダブル選挙(知事、大阪市長選)の結果については、各紙とも大きな紙面を割いて分析しているのであまり付け加えることもないのだが、府議選・市議選の結果はそれに劣らず重大な影響を与えるものと思われる。そのことに言及した数少ない解説記事に、毎日新聞(4月11日)の分析がある。以下、抜粋して紹介しよう。
「7日投開票の大阪市議選(定数83)で共産党大阪市議団が9議席から4議席に半減し、56年ぶりに本会議で代表質問できない『非交渉会派』になる可能性が浮上している。大阪維新の会の大勝で立憲民主党は議席を得られず、議会の総保守化が進行している。大阪市議会では、代表質問権などを持つ『交渉会派』になるには内規で5議席が必要だ。共産党市議団が非交渉会派になれば、1963年以来。共産は今回、22人を擁立したが、瀬戸一正団長ら現職4人と元職2人を含む18人が落選。このままでは議会運営委員会に入れず、本会議での一般質問もできなくなる」
選挙結果を受けて、すでに公明には大きな変化が生まれている。大阪都構想の住民投票に向けての協議に公明が入らなければ、次期衆院選で公明現職がいる関西6選挙区で対抗馬を立てる―と維新から恫喝されているからだ。既得権益を何よりも大事にする「常勝関西・公明」のこと、「虎の子」の衆院6議席を失うことなど想像もできないだろう。いかなる犠牲を払っても取引に応じることは容易に予想されることから、遠からず大阪都構想法定協議会での議論が始まるだろう。そのとき、「反維新」各会派はいかなる行動をとるのか、これからの新たな戦略なしには事態に対応できない。今回の選挙総括はそのことと密接に結びついている。
【私見】
大阪市議会の議席の現状は、危機的な様相を呈している。
➀大坂自民党は維新の会よりはまともで、リベラルである。日本共産党が自民党と共闘して府知事選・市議選で候補を擁立していることに異論はない。
②ただ、神奈川県知事長洲一二氏の3期目、川崎市長高橋清氏の2期目に、社共をベースとした初当選に旧民社・公明以外に、自民が相乗りした時点で地域の共産党は独自候補をたてるようになった。明確な変質を見越しての独自候補だった。
➂衆院大阪補選に、宮本たかし参議院議員が共産党から無所属の野党共闘候補として立候補。自由党社民党が推薦に回った。
➃立民・国民は公然とは明示していない。しかし、無所属元とうたった樽床伸二候補は、民進党が小池都知事の策謀で民進党解体をはかって「希望の党」を作った時の民進側から出た初代の代表代行である。そのような候補に国民党立憲民主党が明確な態度もあきらかにせず、野党共闘も投げ出している。
以上4点を広原盛明氏の深い示唆から得たことに感謝している。
2019-04-14
2019年4月7日の大阪ダブル選挙投開票日から1週間、選挙の全貌が次第に明らかになってきた。統一地方選の後半が控えているので各党の選挙総括はこれからだが、野党各派は総括作業に苦しむのではないか。それほど見事な負けっぷりであり、単なる負け惜しみのコメントだけではすまされないからだ。まずは、知事選と大阪市長選の結果を地域別に見よう。以下は、その概要である。
(1)知事選では、政令市(大阪市、堺市)、府下31市、同10町村のいずれを取って見ても吉村候補(維新)が小西候補(自公、他)をほぼ6:4の割合で圧倒した。大都市から町村に至るまで維新票が平均して6割(強)を占めたことは、維新が浮動票の「風」に乗っているのではなく、安定した固定票によって支えられていることを示している【表1】。
(2)大阪市長選では、衆院選挙区別に見ると若干の差はみられるもの、いずれの選挙区においても松井候補(維新)が過半数の得票で柳本候補(自公、他)を大きく引き離した。また、大阪市における維新票は、知事選70万票(6割強)、市長選66万票(6割弱)でその差がきわめて少ない。「入れ替え出馬」という奇策が「知事・市長セット投票」という有権者の選択行動に結びつき、事前に不利が予想されていた市長選情勢を覆す結果となったのである【表2】。
【表1.大阪府知事選、市町村別得票数・得票率】
吉村洋文(維新) 小西禎一(自公) 投票者数(含無効票)
大阪市 703,329(60.9%) 436,195(37.8%) 1,155,316(100%)
堺市 203,620(59.5%) 133,252(39.0%) 342,102(100%)
31市 1,309,216(65.6%) 660,218(33.1%) 1,996,038(100%)
10町村 49,938(65.3%) 24,535(32.1%) 76,451(100%)
計 2,266,103(60.9%) 1,254,200(37.8%) 3,569,907(100%)
【表2.大阪市長選、衆院選挙区別得票数・得票率】
松井一郎(維新) 柳本顕(自公) 投票者数
衆院1区(中央・西・港・天王寺・浪速)122,685(59.1%) 81,927(39.5%) 207,537(100%)
衆院2区(阿倍野・東住吉区・平野) 106,605(53.9%) 88,803(44.9%) 197,897(100%)
衆院3区(大正・住之江・住吉・西成) 106,301(53.2%) 90,710(45.4%) 199,902(100%)
衆院4区(北・都島・福島・東成・城東)149,947(61.1%) 91,876(37.5%) 245,240(100%)
衆院5区(此花・西淀川・淀川・東淀川)124,583(58.4%) 85,321(40.0%) 213,204(100%)
衆院6区(旭・鶴見) 50,698(56.1%) 38,214(42.2%) 90,372(100%)
計 660,819(57.2%) 476,351(41.3%) 1,154,152(100%)
次に、府議選、市議選の結果の傾向についてである。前回統一地方選における両選挙の党派別得票数をまだ入手していないので詳細な比較はできないが、総じて大阪は府議選、市議選ともに革新・リベラル勢力が(著しく)後退しており、かっての支持層であった無党派層の大半が維新に流れているとみられる。
(1)府議選、市議選の党派別得票数は、維新が府議選では過半数、市議選ではそれに近い比重を占めて圧倒的な存在を示した。これに対して自民は両選挙とも2割前後、共産はその半分の1割前後、公明は府議選では1割、市議選では1.5割強であり、立民は影が薄い。【表3】。
(2)府議選は、定数1の選挙区が全53選挙区の6割近い31選挙区を占め、第1党派が議席を独占する傾向が強い(いわゆる「小選挙区制」の影響)。維新は、前回選挙の1人区で自民から議席を奪って躍進したが、今回は31選挙区で26議席(8割強)の議席を獲得し、また定数2以上の選挙区でも第1党の位置を譲らなかった。その結果、維新は前回の40議席に対して51議席を獲得し、過半数を制したのである。これに対して公明は現状を維持したものの、自民は9議席を失って15議席に後退した【表4】。
(3)大阪市議選は定数1の選挙区がなく、定数2が5選挙区(2割)、定数3以上が19選挙区(8割)と事実上の中選挙区制である。その影響で府議選のように大きな議席変動が起こることは少ないとされていたが、それでも今回は維新の躍進で共産が9議席から4議席へ半減(以上)するという激変が生じた。共産は市議会運営においてもこれまで無視できない影響力を発揮してきただけに、今回の大幅減によって議会運営に構造的な変化が起こることも予想される【表5】。
【表3.大阪府議選、大阪市議選、党派別得票数・得票率】
維新 自民 公明 共産 立民 無所属 計
府議選 1,530,336 698,403 311,332 243,270 58,695 173,507 3,017,349
(%) 50.7 23.1 10.3 8.0 1.9 5.7 100.0
市議選 499,275 190,951 173,045 111,462 38,367 43,976 1,058,685
(%) 47.1 18.0 16.3 10.5 3.6 4.1 100.0
【表4.大阪府議選、定数別、党派別議席】
維新 自民 公明 共産 立民 無所属 計
定数1(31選挙区) 26 3 ― ― ― 2 31
定数2(15選挙区) 15 7 8 ― ― ― 30
定数3(2選挙区) 2 2 2 ― ― ― 6
定数4(4選挙区) 7 2 4 1 1 1 16
定数5(1選挙区) 1 1 1 1 ― 1 5
計(53選挙区) 51 15 15 2 1 4 88
改選前 40 24 15 2 ― 3 88(欠員4)
【表5.大阪市議選、定数別、党派別議席】
維新 自民 公明 共産 無所属 計
定数2(5選挙区) 5 2 2 ― 1 10
定数3(9選挙区) 15 6 5 ― 1 27
定数4(5選挙区) 10 3 5 ― 2 20
定数5(4選挙区) 8 4 4 4 ― 20
定数6(1選挙区) 2 2 2 ― ― 6
計(24選挙区) 40 17 18 4 4 83
改選前 33 21 19 9 2 86(欠員2)
今回の大阪ダブル選挙(知事、大阪市長選)の結果については、各紙とも大きな紙面を割いて分析しているのであまり付け加えることもないのだが、府議選・市議選の結果はそれに劣らず重大な影響を与えるものと思われる。そのことに言及した数少ない解説記事に、毎日新聞(4月11日)の分析がある。以下、抜粋して紹介しよう。
「7日投開票の大阪市議選(定数83)で共産党大阪市議団が9議席から4議席に半減し、56年ぶりに本会議で代表質問できない『非交渉会派』になる可能性が浮上している。大阪維新の会の大勝で立憲民主党は議席を得られず、議会の総保守化が進行している。大阪市議会では、代表質問権などを持つ『交渉会派』になるには内規で5議席が必要だ。共産党市議団が非交渉会派になれば、1963年以来。共産は今回、22人を擁立したが、瀬戸一正団長ら現職4人と元職2人を含む18人が落選。このままでは議会運営委員会に入れず、本会議での一般質問もできなくなる」
選挙結果を受けて、すでに公明には大きな変化が生まれている。大阪都構想の住民投票に向けての協議に公明が入らなければ、次期衆院選で公明現職がいる関西6選挙区で対抗馬を立てる―と維新から恫喝されているからだ。既得権益を何よりも大事にする「常勝関西・公明」のこと、「虎の子」の衆院6議席を失うことなど想像もできないだろう。いかなる犠牲を払っても取引に応じることは容易に予想されることから、遠からず大阪都構想法定協議会での議論が始まるだろう。そのとき、「反維新」各会派はいかなる行動をとるのか、これからの新たな戦略なしには事態に対応できない。今回の選挙総括はそのことと密接に結びついている。
【私見】
大阪市議会の議席の現状は、危機的な様相を呈している。
➀大坂自民党は維新の会よりはまともで、リベラルである。日本共産党が自民党と共闘して府知事選・市議選で候補を擁立していることに異論はない。
②ただ、神奈川県知事長洲一二氏の3期目、川崎市長高橋清氏の2期目に、社共をベースとした初当選に旧民社・公明以外に、自民が相乗りした時点で地域の共産党は独自候補をたてるようになった。明確な変質を見越しての独自候補だった。
➂衆院大阪補選に、宮本たかし参議院議員が共産党から無所属の野党共闘候補として立候補。自由党社民党が推薦に回った。
➃立民・国民は公然とは明示していない。しかし、無所属元とうたった樽床伸二候補は、民進党が小池都知事の策謀で民進党解体をはかって「希望の党」を作った時の民進側から出た初代の代表代行である。そのような候補に国民党立憲民主党が明確な態度もあきらかにせず、野党共闘も投げ出している。
以上4点を広原盛明氏の深い示唆から得たことに感謝している。