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ジャニーズに「注意」 公取委の狙いは?

2019-07-18 19:30:40 | 社会
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47464800Y9A710C1000000/ 日本経済新聞2019/7/18

公正取引委員会がジャニーズ事務所(東京・港)を注意したことが明らかになった。「退所したSMAP元メンバー3人の番組起用を妨げるような働きかけがあった場合」は独占禁止法違反につながる恐れがあるという内容だ。調査の結果、同法違反を認定するだけの証拠は得られなかったものの、3人のテレビ出演が激減する現状を踏まえて警鐘を鳴らした。

公取委は元メンバーの稲垣吾郎さん、草彅剛さん、香取慎吾さんの3人への対応について、同事務所を調査していた。同事務所はホームページ上で「テレビ局に圧力などをかけた事実はない。今後は誤解を受けないように留意したい」とコメントした。
3人は現在、長年SMAPマネジャーを務めた女性が設立した新事務所に所属している。テレビ各局のレギュラー番組は相次ぎ終了し、CM以外の地上波テレビ番組で3人の姿を見る機会は大幅に減った。今も根強い人気を誇るだけに、ファンからは残念がる声も上がっていた。

「新しい地図」のサイト上に掲載されたテレビ出演のスケジュール。草彅さんがNHKの「ブラタモリ」でナレーションを担当しているだけ(17日)
芸能界では所属事務所とのトラブルがタレントらの活動に影響するケースが少なくない。NHK連続ドラマ出演で人気俳優となった、のんさんは事務所との契約問題を受けて「能年玲奈」から改名。一時期、表舞台から遠ざかった。アイドルや俳優だけでなく、歌手、お笑いタレントなど幅広い分野で、独立などのトラブルをきっかけに活躍の場を失うことが繰り返されてきた。
独禁法に基づく措置は3段階ある。違反を認定した場合には再発防止を求める行政処分として排除措置命令を出す。行政処分するだけの証拠が集まらなかったとしても違反の恐れがあれば、取りやめを求めて「警告」を発する。
ジャニーズ事務所が受けた「注意」はさらに弱い措置で「違反につながる恐れがあるケース」が対象になる。当事者に自浄を促すのが目的だ。
公取委はジャニーズがテレビ局に対し3人の起用を見送るよう圧力をかけた、とする情報を基に関係者からの聞き取りなど、調査を進めた。しかし、明確な独占禁止法違反を認定するに足る証拠は得られず、ジャニーズに対する措置は注意にとどまった。
公取委は1950~60年代にも松竹、東宝、東映など大手の映画製作・配給会社6社が他社の俳優らの出演作品を自社系列の映画館で上映しないとの協定を結んだとして問題視したことがある。協定は「スター俳優」の囲い込みが狙いだった。その後、一部の会社が協定から脱退し、他社も制限条項を削除したことから不問とした。

今回、改めて公取委が芸能界の問題に取り組んだ背景には、2018年2月に公取委の有識者会議が出した報告書がある。多様な働き方が広がっている実態を踏まえ、報告書は「フリーランスや芸能人、スポーツ選手も独禁法の保護対象になり得る」との立場を示し「不当な取引慣行は独禁法が禁じる『優越的地位の乱用』に当たる可能性がある」とした。
公取委は現在、幅広い労働分野について重点テーマとして情報収集を続けている。芸能界に限らず、スポーツ選手の移籍やフリーの技術者、アニメーターなどの契約のあり方が今後、調査の対象になることも予想される。

感想
同事務所はホームページ上で「テレビ局に圧力などをかけた事実はない。今後は誤解を受けないように留意したい」

誤解を受けないようにではなく明確な証拠がなかったから注意を受けたと謙虚に反省されることかと思います。
誤解なら、公正取引委員会に苦情を申し立てればよいのですから。

またTV局がジャニーズ事務所に忖度した可能性もあります。
財務省が安倍首相に忖度したように。
TVが3人の番組を次々と止めたのはまさに忖度以外のなにものでもないと思います。
中居さんの番組は続いています。
そこには民放各局が忖度せざるを得ない状況だったのだと思うのですが・・・。

https://news.yahoo.co.jp/byline/soichiromatsutani/20190718-00134695/
ジャニーズに対する公取委の注意、その背景とこれまでの文脈とは──今後の注目はテレビ局の
Yahoo 松谷創一郎 | ライター、リサーチャー 7/18(木)

 7月17日夜、公正取引委員会がジャニーズ事務所に注意したことをNHKがスクープした。
・「元SMAP3人の出演に圧力か ジャニーズ事務所に注意 公取委」2019年7月17日
 このNHKの報道では、ジャニーズ事務所が民放テレビ局などに対し、元SMAP(現・新しい地図)の3人を「出演させないよう圧力をかけていた疑いがある」としている。
 本記事では、このニュースの背景を解説していく。
2018年の独禁法見直し
 まず、この問題の前提として押さえる必要があるのは、ふたつの事実関係だ。
 ひとつは、元SMAPメンバーの稲垣吾郎さん・草なぎ剛さん・香取慎吾さんの3人について、相次いで地上波キー局のレギュラー番組が終了した事実だ。3人は、2017年9月にジャニーズ事務所との契約を解消して、SMAPの元チーフマネージャーだった飯島三智氏が設立したCULENに移籍した。その後、長寿番組も含む彼らの地上波番組はNHKを除いてすべて終了した。列挙すると、以下である。
香取慎吾:テレビ朝日『SmaSTATION!!』(2017年9月終了)
草なぎ剛:テレビ朝日『「ぷっ」すま』(2018年3月終了)
香取慎吾:フジテレビ『おじゃMAP!!』(2018年3月終了)
稲垣吾郎:TBS『ゴロウ・デラックス』(2019年3月終了)
草なぎ剛(ナレーション):NHK総合『ブラタモリ』(継続)
 こうした不自然な状況は、2018年3月の段階で確認できていた。
■関連:「新しい地図」が地上波テレビから消えていく──忖度と圧力、その罪と保身(2018年3月12日)
 もうひとつは、2018年2月に公正取引委員会が芸能人などフリーランスにも独占禁止法を適用すると発表した事実だ。これは、個人事業者なので労働基準法の適用外になっていた芸能人(フリーランス)を、独禁法で守ろうとするものである(公正取引委員会「人材と競争政策に関する検討会 報告書」2018年2月15日/PDF)。ここで注目すべきは、一般のフリーランスだけでなく、スポーツ選手と芸能人について強調されていたことだ。
 実際この独禁法の見直しによって、昨年度大きな変化があったのはスポーツ界だ。陸上、バドミントン(実業団連盟)、ラグビー(トップリーグ)、バレーボール(Vリーグ)などでは、引き抜き防止を目的に選手の移籍制限を明示しているところが多かった。公取委はその各団体に注意をし、移籍制限はほぼなくなった。
 今回のジャニーズに対する注意は、昨年度中にスポーツ界の問題が概ね片付いたことと無関係ではないだろう。報告書において問題がある業界として注目されていたのだから、次の対象が芸能界となるのは必然とも言える流れだ。
■関連:独禁法でフリーランスの“働き方改革”は進むか──スポーツ・芸能・放送・総務省・出版、各界の反応は?(2018年3月16日)
「違反につながるおそれがある行為」
 さて、今回のジャニーズ事務所への公取委の対処だが、各報道によると「注意」にとどまっている。それを踏まえてジャニーズ事務所も、以下のような声明を発表した。
弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません。とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止め、今後は誤解を受けないように留意したいと思います。
出典:ジャニーズ事務所「2019年7月17日報道に関するご報告」2019年7月17日
 この声明でジャニーズ事務所は、テレビ局に圧力などをかけた事実はないとしている。実際に違反行為が認められる証拠は確認できていないようだ。よって、「行政処分」(排除措置命令等)や「警告」を受けてはいない。しかし、「注意」されたのはまごうことなき事実だ。
 公正取引委員会の行政指導では、いくつかのグレードがある。もっとも重いのは「行政処分」だが、その次が「警告」、そして「注意」となる。「行政処分」がレッドカードだとすると、「警告」はイエローカード、「注意」はその前段階のものだと言える。実際、このことについて公取委は公式ホームページで明示している。
 さらに,違反行為の存在を疑うに足る証拠が得られないが,違反につながるおそれがある行為がみられたときには,未然防止を図る観点から「注意」を行っています。
出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(独占禁止法)」2019年7月18日確認
 ジャニーズ事務所が、「行政処分や警告を受けたものでもありません」とするのはたしかにそのとおりだ。だが、それは「注意」を受けた事実を弱めようとする表現でしかない。公取委は、「違反につながるおそれがある行為」を確認したからこそ、ジャニーズ事務所に「注意」したのは間違いない。
春から動いていた公取委
 また、現在世の中でささやかれているのは、このタイミングについてだ。周知のとおり、ジャニーズ事務所の創業者であり社長であるジャニー喜多川氏が逝去したのは、先週7月9日のこと。そのニュースが連日伝えられてきたなかで、今回の報道がなされた。
 この状況に対してさまざまな観測がなされているが、しかし、実は公取委は今年の春の段階から調査を進めていたことはたしかだ。『週刊文春』でも、すでにそのことは伝えられている(「錦戸亮“脱退”で関ジャニ崩壊危機【全文公開】」『文春オンライン』2019年3月7日)。また、筆者も5月下旬の段階で公取委が芸能界の調査を進めている情報を得ていた。加えて、本日(7月18日)発売の『週刊文春』7月25日号でも、新聞記者の発言として「近く独占禁止法違反容疑で、ジャニーズ事務所に対し、正式な警告があると見られています」と書かれている。つまり、十分予期できていたことだ。
■関連:ジャニーズ事務所を取り巻く3つの変化──時代から取り残されるか、時代とともに歩み続けるか(2019年3月22日)
 今回の公取委のジャニーズ事務所への注意は、こうした一連の調査を踏まえた現段階でのひとつの結果である。
 ここからは推測だが、おそらくこのタイミングになったのはある種の必然がある。もちろんそれは、ジャニー喜多川氏の病状が関係していた。ジャニー氏が倒れたという情報が流れたのは6月18日のこと。予期せぬこの事態によって、公取委の注意や報道に少し遅延が生じたと考えられる。よって、ジャニー氏逝去についての報道が落ち着いたここ数日に報道されたこと自体は、さほど不自然ではない。
民放各局はどのような説明をするか
 最後に、今後についてふたつ触れておく。
 まず、今回の一件では、ジャニーズ事務所と公正取引委員会以外にも、もうひとりのプレイヤーがいる。それが民放テレビ局だ。
 NHKの一報後、夜のニュースではテレビ朝日以外も報道をしたことが確認できた(テレ朝『報ステ』は時間的に間に合わなかったと思われる)。そこで気になったのは、各局がまるでひとごとのように報じたことだ。たとえばフジテレビは以下のように報じている。
関係者によると、公取委は、SMAPの元メンバー、稲垣吾郎さんと草なぎ剛さん、香取慎吾さんが独立したあと、ジャニーズ事務所が3人を出演させないよう、テレビ局などに圧力をかけていた疑いがあるとみて調べていた。
出典:「元SMAP3人のテレビ出演めぐり注意 公取委がジャニーズ事務所に」
 今回、ジャニーズ事務所の「違反につながるおそれがある行為」によって、元SMAPの3人を地上波から締め出したのはフジテレビ・テレビ朝日・TBSの3社である。日本テレビはSMAPのレギュラー番組を持っていなかったが、嵐の冠番組を手がけるなど、ジャニーズ事務所とは懇意のテレビ局である。
 今後この民放各局が、どのような説明をし、そして再発防止のためにどのような策を採るかは大きな注目に値する。とくにフジテレビは、元SMAPの3人が新事務所に移籍した段階で、同社の芸能デスク・加治佐謙一氏が2018年4月以降に3人が地上波から閉め出されることを予見していた。
加治佐:(オファーする側は)ジャニーズ事務所のほうに気を遣ってるので、たぶん仕事は増えないと思います。来年になるとわかりませんけれども。
安藤優子:とりあえず、じゃあ来年の3月いっぱいぐらいまでは現状維持?
加治佐:というかたちになると思います。ただオファーに関しても、あるかどうかっていうのはちょっとわからないですね。ジャニーズ事務所の方に気を遣って、ないかもしれないですね。
出典:フジテレビ『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日
 なぜ加治佐氏はこのような話をできたのか、フジテレビは説明する必要があるだろう。

『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日より。このようなパネルを使いながら加治佐氏は解説をした。
 このときひとつ説明を加えておくと、テレビ局と言っても当然のことながら大きな組織であって、一枚岩ではない。バラエティ番組を制作する部署と、報道を担当する部署は、立場も役割ももちろん異なる。よって、各社の制作と報道によって綱引きが生じる可能性が高い。ジャニーズ事務所に忖度をし続けた対応を採るか、はたまた断固たる対応を採るのか、そこを見定める必要があるだろう(NHKがこの件の報道で2年前の段階からリードしているのは、局内において報道のほうが圧倒的に力が強いからだ)。
 もうひとつ今後の展開として考えられるのは、この問題がジャニーズ事務所に限らず芸能界全体に波及することだ。現在、事務所を移籍したことによって(あるいは事務所とのトラブルによって)民放地上波から閉め出されている芸能人が実際に存在する。わかりやすいところで言えば、のん(能年玲奈)さんがそうだ。また、これまでにも大手事務所を辞めたあとに地上波等から閉め出された芸能人は幾人も確認できる。
 
 映画・音楽・テレビ・舞台(演劇)──日本のポップカルチャーは、芸能界の大きな影響を受けて進展してきた。よって、今回も単に芸能界だけの騒動ではとどまらず、各業界に強く波及するのは間違いない。加えて、社会の象徴性を帯びた芸能界の変化によって、フリーランスを取り巻く一般への波及も十分に想定される。

「神田橋條治精神科講義」神田橋條治著 ”臨床の知と技”

2019-07-18 07:17:37 | 本の紹介
・精神療法を考えていくなかで技法を選ぶ場合に、いろいろな説があるけれども、「雰囲気」でいけばいいんだということです。

・この「聴く」という作業は、何もしないでただ聴いているということではないでしょ・・・
臨床現場の技術がうまくなるには、相手の話を聴いて相手に自分が半分乗っている。で、こちら側にいる自分のなかに不愉快な気持ちが湧いてくる。そこで、「ああ、そうか、このあたりがこの人の問題点なんだろう」と、だいたいの目星がつくわけです。このとらえ方の技術がいちばん大事なところです。ここから策をどうしたらいいか、いろいろな本に書いてありますが、相手の身になった感じでとらえるというのではければ、とらえる時点で間違う。なにかピントはずれの問題点のとらえ方になってしまいます。

・しかし病気の人となると、それくらいでは変われない。その場合には、もう少し親切な方法があります。それは、「この人はどうなりたいか」ということ、「そうなるとどういう利益があるのかな」と考えてみる。次に大事なことは、患者に問題点となる特徴があるとして、その特徴があると逆にどんな利益があったのかなと考えてみる。・・・ 「問題点」はもともとは優れた特徴なのであって、何か有利な面があると考える。言い換えると問題点をとらえる際には、有益な側面をとらえるほうが望ましいの。スポーツの練習や教育でも同じです。

・陰陽論のなかでは陰と陽の関係は、どうなっているかというと、「陽は陰を導く」と言われています。だから心(陽)が体(陰)の状態を導いていく。これは精神身体医学ですね。心の持ちようによって身体のコンディションも変わるということです。そうすると、いつも陽が支配者であって、陰がそれに従っていくことになる。ところが、もうひとつ「陰は陽を養う」というのがあるのです。つまり陽は陰をリードして導いているのですが、その導くときに使われる陽のエネルギー、陽の持つ力は全部、陰に発している。・・・ エネルギーの源はすべて陰にあるから、体の状態が悪いと精神に鋭気が出ない、というような話につながる。そういうふたつの構造があります。・・・ つまり安定してきたら曖昧なものを増やしていき、不安定なときには確かなものを増やしていくようにする。それを使い分けていくのが精神的な健康につながるのです。

・精神が健康である状態を一言で表そうとしたら、それは「好奇心」です。好奇心が生命の生き生きしていることのいちばんの現れです。

・言葉で表せなないようなもの、フィーリングのトレーニングには「触る」というのがとても大事です。それから匂い、ハーブとか、お香とか。

・「地図は現地ではない」は大好きな言葉です。

・不登校の子どもたちをずっと見ておられる稲垣卓という先生の本を紹介します。その先生は理論化しない人で、ただ経験をだけを語るという少々頑固な人で、「不登校の治療でしちばん有効なのは家事労働をさせることだ。理由は分からないけれど、家事労働をさせたらいつの間にか学校にいくようになった」と書いています。・・・ 家事労働をさせるとき、「ここはあなたの受け持ちよ」と言うのは駄目で、何でもさせて、できればお父さんお母さんと一緒にするのがいいのです。そして分担を決めずに、たとえば洗い物ををしていたら、さらをふいてとか、ちょっと火を止めてとか、それも「火を止めて」と言わずに、「ほらっ」とか言って、できるだけ言葉は少なくして、お互いにものを言わずにするのがいいんです。

・まず患者さんが来て何か言ったり聞いたりする。確かにここに来る患者さんのほとんどはもともと知らない人だけれども、もともと知り合っている人、隣近所の人、あるいは同級生みたいな知っている人が、病気をしてここに来たというつもりで、話を聞いたり、助言したりしてあげるといいです。そうすると、今まで言ったりしたりしていたことのかなりの部分は、言うか言わないか、するかしないか、後々のことを考えなければならなくなります。付き合いが続くんだからね。実際は続かないかもしれないけれど、イメージとして続くと仮定するの。治療が終わったら今までよりももっとつき合いが深くなっていくという関係、そういう関係だと思って、ものを言ったり振る舞ったりすれば、うんとうまくなる。言い損ないがない。ただし、隣近所の人に対しては、われわれ専門家であっても、あんまり格好いいことは言えないよな。これを考えてみてください。
・二番目は「対話」ということです。音があって、表情があって、タイミングがあって、触れ合いがあって、感情の行き来がある。

・主訴を見たときには、何かの病気と、それと戦っている自然治癒力との合成だと考えるの。それが見えていないと臨床が見えない。言い換えると、「主訴のなかには自然治癒力がどう現れているかな」と思って見ると、精神療法の計画が立つようになります。・・・ 精神療法の手始めは、「見かけ上、変だね」と思うことが、その個体にとって、その時点で何かいいんじゃないか、何かプラスあるはずだ、と思ってみることで手がかりがつかめて先に進んでいけるんです。

・POS(プロブレム・オリエンテッド・システム)

・「サイバーと心の回復力」

・その人の、こっちから見て右側、その人にとっては左側の情報がバウムテストではみらいを表す。それから右の情報、こっちから見て左の情報が過去を表すとか言うじゃない。
そう思って見ると、確かに中がすっぽんぽんの人は、周りに合わせていくタイプの人ね。周りに合わそうと努力をしている人。上手いか下手かは別として、そういう人は中がすっぽんぽんになっている、ということに気がつきました。それで、そういう人たちにバランスボールを買わせてて、したらよかろうと思ったけれど、・・・大きくて大変なのね。・・・ ボクの気功教室の仲間に理学療法士の人がいまして、その人がエアクッションというのがあって、それがバランスボールとほとんど同じような効果があると教えてくれたんです。
・・・ その芯を意識して、・・・ 目から入ってきた刺激を全部、この芯に入れるのね。・・・
これをやりだしてからリストカットをして来た人はひとりしかいない。リストカットが激減します。これをやっていると芯がしっかりしてきて、いろんなことに対して揺るぎなく、自分の生活をマネージしていくようになるんです。

・河合隼雄先生と話しとったときに、河合隼雄先生が突如として、怒り始めたんですよ。「ねえ、神田橋さん、われわれが一所懸命工夫して、努力して、技術を作ると、あれは才能だと言うヤツがいて腹立ちますね(笑)、才能だとか、河合は天才だとか、言うんですよね、腹立ちますね」と。

・医者の「薬物依存」「マニュアル依存」はひどいものになっています。発達障害者の脳では、薬物に起因する幻覚が頻発しています。・・・ 主観・感覚の放棄は自己放棄なのです。

・「いろいろ考えて、吹っ切れました。退院させてください」と言うから、「そうですか」と帰すと、帰り道で筑後川に飛び込んで、となる。急に明るくなるのは死ぬ決心が定まったから。そうなると自殺の能力だ。自殺するという決心やその思いのなかに身を任せると、気が楽になるんでしょう。

・和歌山ヒ素事件のときに、ヒ素中毒の人がたくさん出て、担ぎ込まれた病院で、死亡した人が多い病院とあんまり死ななかった病院とがあった。それをどうしてだろうと思った中学生が、夏休みの研究がなんかでその病院を全部訪問して、いろいろ聞いたみたいだね。・・・ 「吐いて苦しそうだから」と、吐き気止めを投与された患者さんはたいてい死んで、「吐いているから、何かわからんけど腹のなかに変なものが入っとったらいかんから」というので、とりあえず胃洗浄をしてもらった病院の患者さんは助かった。文芸春秋で賞をもらったけど、頭のいい中学生がいるもんだなあ。

・ボクの主治医の丸山征郎先生の講演で聴いたことだけど、アフリカだったかな、マラリアがすごく蔓延する地方があってね。そこに、ひどい貧血があるんだって。「これは鉄剤を飲ませて、貧血を直してやらんといかん」ということで、鉄剤を飲ませたんだね、イギリスの集団検診のスタッフかなんかが。そうしたら、貧血がよくなった人は、ばたばたマラリアにかかった。その結果、ひどい貧血の状態では、マラリア原虫は繁殖することができないということが分かった。マラリアを予防するためかどうか分らんけど、そこの住民はみんな貧血がひどい状態になっていて、マラリアの原虫を持った蚊に刺されても、なんとか発病しないですんでいたの。共存だね。

・脳を回復させることによって、脳が心の無理難題に耐えられるようになるということです。

・非常に腹が立つのはね、子どもの殺傷事件なんかが起きたり、大きな事故があったりすると、PTSDの支援チームとか何かそういうものを作って、わーっと行ってね、「どうですか? 夢を見ますか?」とか、「しょっちゅう思いだしますか?」とか、「寝られんのじゃありませんか?」とか、聞くのよね。あれはもう実にいかんよ。というのは、何か事件があって、たとえば地震があって、わーっとなっても、多くの人は忘れる。忘れるというのは記憶のなかに沈殿させてしまうわけだ。そしてフラッシュバックが起こらない程度に脳がタフであれば、似たような刺激が来ても、たとえばこのコップがカタカタと動いても、「わっ」とならない人の方が大半なのよ。それなのに、せっかく忘れているのに、無理に思い出せるように復習させる。復習すると、勉強がよくできるようになるでしょう。支援チームはPTSD・フラッシュバック保存活動ボランティアみたいなものだ。なあ、けしからんよ、供給が需要を喚起しているんだ。絶対悪いよ。ボクはあちこちで言っているの。

・漢方の補剤というのはたいしたものなんですね。補剤にはいろいろあるんですが、ある200床ぐらいの老人病院で老人のからだの状態に合わせた補剤を投与したら、風邪を引かなくなる、下痢をしなくなる、風邪を引いても肺炎にならなくなる、それから感染症にならなくなって、年間の薬剤費が約2,000万円も節約になったそうです。・・・ 漢方に変えなきゃ駄目なのよ。ただ漢方を追加するだけなら、追加したぶんだけ薬剤費が余計にかかるから。そうじゃなくて、ちゃんと他の薬を抜いていけば、薬剤費がかからないし、副作用も少ないですからね。

・どくだみ茶を飲ませてみた。そうすると、3~4か月ぐらい経ってからだったかな、脳下垂体の邪気が消えたの。

・ともかく今のままでどんどん臨床がひどくなっていきますと、被害者ばっかり出てきて、こうれはどうしようもない。・・・ 受け手であるお客さんの側が声をあげていくような運動を起こす以外に、事態を修復する方法はもうなんだろうと思います。臨床のできない人が現在の精神医学の指導的立場にいますから、どうしようもない。非常に悲惨な状態になっています。薬の量と種類がだんだん増えていかなきゃならないようになったら、これは診断がおかしいんじゃないかと思ってください。いちばん大きなものは、薬を増やしたから病気が悪くなっている場合がある、ということです。増やしたから、病気が悪くなるんです。脳に効く薬ですから、脳に“悪く効く”ということがあるわけですね。全部“よく効く”ということはない。脳に効かない薬はあんまり害がないけれど、”効く“んだから、”悪く効く力がある“ということです。

・「知」と「技」が理想的にお互いに助け合って、これがこっちの役に立つ、これはこっちの役に立つと考えると、次のようになるだろうと考えたの。「知」と「技」のふたつが融合していくと、見かけは「技」の形をしているけれども、実はそれが「知」である、あるいは「知のための技」「技のための知」とか、あるいは「知としての技」「技としての知」となってくると、統一体になる。ふたつを統一体にするという考え方は、西郷隆盛なんかが信奉していた陽明学のなかの知行合一の考え方です。知行合一というのは、言行一致です。

・ニキ・リンコ著「スルーできない脳」

・震災のボランティアに今、全国から行っています。スクールカウンセラーとか、精神科医の会とか、ずいぶんたくさんのボランティアが行っていますが、ボクは行ってこられた方たちに会って、話を聞いたの。
そのひとつは「何もすることがない」ということ。・・・ ある臨床心理士の人が行ったときには、みんな、まだ話をするどころじゃなくて、「水が足りん」とか、「食べ物がない」とか、「あの人はどこに行ったどうか」とかいうような話で、心理などということはもうどっかにぶっ飛んでしまっている。・・・ あと、何ができるかと考えて、「話を聞きましょう」とか言っても、被災者はまだ話ができるような状況じゃない。じゃあ何がいいのかというと、じーっと一緒に座ってたり、空を眺めてたりするといいらしいの。困っている人がいたら、ただそばにいるだけで、精神科医らしい仕事はできないけれど。
もうひとつは、現地に行ってみるとね、自分たちは震災に遭っていないし、津波に遭っていないし、近親者が流されて、急にその人たちがおらんようになったりしていない。つまり、被災地の人たちと自分との体験の重なるところが全然ないので、言葉をかけようとか、理解しようとかすることに、すべて根っこがないの。自分の言葉も気持ちも作り物、嘘だという感じがして、声がかけられない、結局、体験していないから分からない。向こうの人たちも、「分かったような顔をして、全然分かっとらんやつが来る」と思ったらしく、ある臨床心理士の人は、校長から「来られるのはいいけど、まず災害に遭った場所を歩いて回ってから来てください」と言われた。それからでないと、分らんちんで、話をしてもしょうがないだろうと。
このふたつ。ひとつは「専門技術が無力になる」という問題と、もうひとつは「相手と体験が共有できない」ということ。このふたつの問題はこういう震災のようなときには強烈です。ひどい。ひどいから滅入るの。しかし、このふたつの問題は精神科的な、あるいは心理的な医療の現場では、実は常にあるものなんだよね。他の問題にカバーされて、小さく思えたり、見えなかったりするだけで。
昨日、偶然、読んだ本のなかに、看護協会の偉い人、80数歳の看護師さんが書いておられた。その人もボランティアの看護師さんの団体を結成して、被災地に行ったの。みんな看護師だから、看護をしようと思って行っているわけだけど、「まず便所の掃除をしましょう」と言って、いちばん最初にみんなでお便所をきれいにした。被災者の人もみんな毎日、お便所に行くんだから、「便所がきれいだったら気持ちがいい」と言って、まず掃除をしたという話が書いてありました。その先生は、ナイチンゲールが書いた本を、いつも自分の看護の聖書のように読んでいるだって。

・掃除のおばさんだった人たちがね、「先生たちは新しい治療法をいろいろ考えついて、一生懸命やって、それでいい論文を書いて、偉ろうならしゃった」「だけどね、みんな、私たちが下で助けとったから、治療がでけたんよ」と言うんだ。「それはどうして?」と聞いたらね、「どの治療をしているきも、患者さんは『この治療は辛い』『もうしたくない』『耐えられん』と言って、泣いてきた。そのときに、私たちが握り飯を作って、漬け物をつけて、『これでも食べて頑張んなしゃい』と言うて、そうしてまた治療が続けられた」と。

・河合隼雄先生は「優れた治療者は『分からない』という言葉で勝負する」とおっしゃっていました。これは名言です。・・・ 「あなたの話のなかのこの部分が私は分からにような気がするんだけど、その部分をもう少し話してくれない?」とか、「ここが分からないのよね」と、的確にピンポイントで指すと、それを向こうが説明してくれるかもしれない。・・・ だけど、これは相手に説明する能力がなきゃ駄目です。そうすると、説明する能力がない個体からどのようにして、こちらの分からないことに関しての情報を引き出すかということになる。そこに、素人ではできない技術者の世界が出てくるわけです。

感想
多くの臨床体験といろいろな技法を試して来られてたどり着いた知と技のように思いました。