・2021年4月、私は突然膵臓がんと診断され、そのとき既にステージは4bだった。治療はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしか手立てはなかった。
昔と違って副作用は軽くなっていると聞いて臨んだ抗がん剤治療は地獄だった。がんで死ぬより先に抗がん剤で死んでしまうと思ったほどだ。医師やカウンセラー、そして夫と話し合い、私は緩和ケアへ進むことを決めた。
そんな2021年、5月からの日記です。
・最初は胃が変だと思ったんです。2020年の終わりくらいに緊張する仕事があって(テレビ出演)、それで胃をやられたと思って、自分でガスター10を買って飲んで、一時的によくなったように感じていました。
でも年が明けるとまた痛みと胸やけが続くようになって、ちょうど人間ドックを予約していたので、その際に問診で不調を伝えたところ、近いうちに胃カメラをやった方がいいと言われました。痛みは継続的ではあるものの、激しいものではなかったので、とりあえず人間ドッグの詳細結果が出るのを待つことにしました。
2月の頭、その結果が郵送で送られてきて、「イレウス疑い」と書いてあるのを見て青くなり、すぐに家の近所にあるC総合病院へ駆け込みました。
その病院でまずは造影剤入りCTで腸を検査したところ問題なさそうだとわかり、腫瘍マーカーも心配なさそうで、その後胃カメラを飲みました。そこで慢性胃炎だろうと診断が下り、なんだ胃炎かと私はほっとしました。胃炎の薬を飲んで様子を見ようということになりました。それが3月上旬です。
服薬して食事に気を付けていれば治るだろうと気楽に考えていたのですが、痛みはあまりよくならず、徐々に背中のほうまで痛むような気がしてきました。夜中に痛みで目が覚めるようなこともあって、次の予約を待たずにC病院へかかったところ、医師は首を傾げるばかりでした、それまでより強い胃薬を出してもらって飲み始めましたが改善が見られなくて、その1週間後、痛みで一睡もできなかった朝、夫に頼んで急患としてC病院へ連れて行ってもらいました。
そこで血液検査をしたところ、C病院の医師が急患用のベッドで点滴されている私のところへ走ってきて「γ(ガンマ―)が!」と言いました。私のγ-GTPが1000を超えていると聞いて私も耳を疑いました。急遽MRIを撮り、その画像を見ながら、どうやら胆管が詰まっている、胆石かもしれないし違うかもしれない、どちらにせようちでは処置できないので、B医療センターへ行ってくださいと言われました。・・・造影剤入りCT,PET検査を受け、あれよあれという間に膵臓がん、ステージ4という診断を受けました。
腫瘍の位置が悪いことで手術はできず、転移していなければ放射線治療も考えられたそうなのですが既に転移もあり、残された道は抗がん剤したありませんでした。しかし抗がん剤でもがんが治るわけではなく進行を遅らせるだけだということでした。
そんなことを急に言われても、というのが正直な気持ちでした。
私は毎年きちんと人間ドッグを受けてきたし、煙草とお酒は13年前にやめて一度も飲んでいないし、食生活だってそう無茶をしたものだとは思いません。
膵臓がんってそんなに見つからないものなの?
・(築地のガンセンターでセカンドオピニオンをもらった)帰りの新幹線のホームで、それまであまり言われたことにピンときていなかったのか、「4か月(余命)ってたった120日じゃん」と唐突に実感が湧いて涙が止まらなくなった。・・・
しかし泣きながらも『120日後に死ぬフミオ』って本を出したらパクリとか言われるかなとも考えた。
帰宅してシャワーを浴びる気もせず、パジャマに着替えてベッドに入った。もうすぐ死ぬとわかっていても、読みかけの本の続きがきになって読んだ・
金原ひとみさんの『アンソーシャル・ディスタンス』、死ぬことを忘れるほど面白い。
・何も考えたくない。
過去のことも未来のことにも目を向けず、昨日今日明日くらいのことしか考えなければだいぶ楽になれるのにと思いつつ、気が付くと過去の楽しかったことや、それを失う未来のことで頭がいっぱいになって苦しくなっている。
今だけを見つめるという技は、宗教を極めた高僧のような人にしか出来ないことなのかもしれないと思う。あとすごい職人さんとかは無意識にできそう。
・どんなにいい人生でも悪い人生でも、人は等しく死ぬ。それが早いか遅いかだけで一人残らず誰にでも終わりがやってくる。
その終わりを、私は過不足ない医療を受け、人に恵まれ、お金の心配もなく迎えることができる。
だから今は安らかな気持ちだ・・・、余命を宣告されたら、そういう気持ちになるのかと思っていたが、それは違った。
死にたくない、なんでもするから助けてください、とジタバタするというのとは違うけれど、何もかも達観したアルカイックスマイルなんて浮かべることはできない。
そんな簡単に割り切れるかボケ!と神様に言いたい気持ちがする。
・何の予兆もなく私は生まれてから一番の寒気の発作に襲われ布団の中で痙攣するように震え、慌てた夫が訪問医療をお願いしているクリニックに電話をし、慌てふためきやってきたクリニックの方もこれはもう救急搬送でしょう、と119番に電話をする事態となった。
急変とはまさにこのこと。奥歯をガチガチ鳴らしながら、エヴァンゲリオンのフォントで「容態急変!」「救急搬送!」と私の頭の中を文字が横切っていくのを見ていた。
・未来のための読書がなくなったらもう読みたいものはないのかもと思ったけれど、私の枕元には未読本が積んであるコーナーがあって毎晩その中からその日の気分に合わせて本を選んでいる。未来はなくとも本も漫画も面白い。とても不思議だ。
・7月17日(土)
58歳の夏、私は腹水が溜まってお腹が苦しい。
腹水が溜まるなんて、なんと言うか末期感がすごい。
・9月2日(木)
一週間、日記が書けなかった。
・9月7日(火)
かなりの確率でこれが最後になるであろう、兄と母の見舞いを受ける。・・・
帰り際、母は泣いていた。・・・
それにしてもがんって、お別れの準備期間がありすぎるほどある。
・10月4日(月)
昨日から今日にかけてたくさんの妙なことが起こり、それはどうも私の妙な思考のせいのようだ。・・・
今日はここまでとさせてください。明日また書けましたら、明日。
・2021年10月13日10時37分、山本文緒さんは自宅で永眠されました。
感想;
膵臓がんは発見が難しいようです。
会社の同期が、お腹の調子が悪いということで胃カメラ飲んでも問題ないということで、そしてひどくなってから膵臓がんとわかり数か月で亡くなりました。
製薬会社で、かつMRで病気のことはよく知っていて、病院のことも知っていたけど発見が遅くなりました。
ガスター10はスイッチOTC(医療用医薬品がOTCに)で効果が高いです。
しかし、それにより、山本文緒さんのように医療機関への受診が遅れる場合があります。また受診してもなかなか発見できないようです。
長引く胃腸の不具合と背中の痛みがあれば、すい臓がんを疑った方が良いようです。
いつ余命宣告されることがあるかわかりません。
それがなくてもいつか死んで逝くことを自覚しなければならなくなります。
それを自ら前もって体験することはできません。
山本文緒さんが死ぬ間際まで、その状況と感情を遺して下さっています。
それを知り、今自分がどうするかなのでしょう。
平均余命とすると、私は16年です。16年の余命宣告と言えるかもしれません。
16年の内自分で行動できる健康余命は10年でしょう。
でもこれは保証されていません。
少しでも健康余命を長くすることと、やりたいことは”今”することなのでしょう。
自分で好きな場所に歩いて行ける。
食べたいものを食べることができる。
トイレも一人でできる。
あたり前のようですが、実は当たり前でなく、神様から与えられているプレゼント(prezent)なのです。
presentには”今”との意味もあります。
まさに今どうするかなのでしょう。
一般的なγ-GTP検査値の基準値としては、男性が50IU/l以下、女性が30IU/l以下とされます。
γ-GTPだけが基準値を超えて高いときには、アルコールが原因の肝障害かすい臓の病気(すい炎やすい臓がん)の可能性があり、GOT(Glutamic Oxaloacetic Transaminase:グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)・GPT(Glutamic Pyruvic Transaminase:グルタミン酸ピルビン酸転移酵素)なども高い値ならアルコール性肝障害以外の肝臓の病気が疑われますので、さらに詳しい検査が必要です。
症状
膵臓は、がんが発生しても小さいうちは症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。進行してくると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感(おなかが張る感じ)、黄疸おうだん、腰や背中の痛みなどが起こります。その他、急に糖尿病が発症することや悪化することがあり、膵臓がんが見つかるきっかけになることもあります。ただし、これらの症状は膵臓がん以外の理由でも起こることがあります。また、膵臓がんであっても起こらないことがあります。
検査
腹痛や食欲不振などの何らかの症状、膵臓がんの危険因子となる疾患(糖尿病や慢性膵炎など)の有無や、血液検査、超音波検査の結果などから膵臓がんが疑われる場合には、造影CT検査、腹部MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)を受けます。これらの検査によって診断が確定できなかった場合には、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)などを受けます。また、可能な限り細胞や組織を採取して、病理検査が行われます。
がんの進行の程度である病期(ステージ)を診断する検査では、必要に応じて、造影CT、造影MRI、EUS、PET、審査腹腔鏡が行われることがあります。