・さまざまな方の治療をしていてきづくのは、「親子の問題」を抱えている人のほうが、治療が長引くということです。
家族がきちんと機能してきた患者さんのほうが、同じうつであっても復帰ははやいです。
・これらの知識は、ある意味、癒しになりえます。
親を責めるのでもなく、自分を責めるのでもなく、「こういう現象が起こっていた」と客観的にとらえ直すことが癒しになるからです。
・親に悩む人の多くは、親本人について不自然なほど無知です。
・問題を抱えている人の場合は、抱えていない人よりも偏りが顕著です。
・本当の問題はいつも無意識の中にあるものだからです。
・精神医学は、「心の問題=脳機能の問題」ととらえます。
人との関わることに怖さを感じる人が、「自分はなんて心が弱いんだ」と自分を責めているとしましょう。これを精神医学的に考えると、心が弱いのではなく、脳の機能に何らかの変性(不安障害など)が起こった、という解釈になります。
・とりわけ理解してもらいたい特性は発達障害に関することです。発達障害は、グレーゾーンまで含めると7~8%の割合で集団の中にいると言われています。1割近くですから、かなりの人数です。
これだけの人数がいるのですから、親が発達障害的な特性を持つがゆえに、子供にとって「ひどい親」になってしまっていたケースは、これまでもかなりの数で存在していただろうと考えられます。
・診察室では、「主観⇒客観⇒主観2.0」という再構築を行います。
患者さんのモノの見方が変化して、その変化に基づいた新たな決定をできれば、そこがゴールです。
・「マズローの欲求五段階説」
・「ある程度」のサポートを長く続けるのが親の役目
・親の「無条件の愛情」には限界がある。
・「先に続く道」とは、どんな親のもとに育ったにせよ、本人自身の意思で選択していく道、ということです。
・「最初の人間関係」がその後も繰り返される。
価値観に偏りのある家庭、特殊なルールの家族関係が営まれていた家庭に育った場合には、社会に適応することが非常に難しくなります。親の価値観が基準になっているので、世間一般とのギャップに混乱するのです。
・家族との間にあった問題が、その後の人間関係で繰り返される現象もよく起こります。職場の上司や同僚、恋人、義理の両親、自分の子供との間で、自分と親との関係をリピートしてしまうのです。
・人間は学習する生き物ですが、最初に学習したものの影響を一番うけるものです。
もし、子供のころの自分や、父親や母親の役回りを無意識に演じていたと気づいたら、それを「意識」できただけで、大きな一歩を踏みだしています。
・きちんと子育てしても、障害があれば逸脱行動には出てしまいますし、依存症も親のせいではなく、依存対象に出会ってしまった不運によるものです。いたずらに自分を責めるのではなく、冷静な態度で、医師の指導を受けながら回復を目指すのが適切な対処です。
・発達障害
・自閉スペクトラム症(ASD)
・注意欠陥多動症(ADHD)
・限局性学習障害(LD)
・発達障害の度合いには、濃淡があります。できることとできないことの凹凸の激しさが上位1~2%くらいのものを発達障害、7~8%くらいまでを「発達障害グレーゾーン」と言います。とはいえ境界線はかなりあいまいで、ここからがグレー、とはっきりとは言えません。
・グレーの人は、発達障害よりも程度はゆるやかですが、やはり苦労が多くなります。会社勤めは一応できているものの頻繁にいじめに遭う、などの逆境にさらされることも。障害の程度が軽いため、かえって周囲の理解が得づらい、福祉の援助を受けられないというつらさもあります。
・ある種の未熟さは、人間理解の乏しさともイコールです。
彼らは人に騙されやすい傾向があります。悪徳商法や、怪しい宗教の勧誘にひっかかりやすいほか、日常的なれべるでは、例えば子供の嘘を真に受けたりもします。
・精神科や心療内科を受診して、過去の経験を語る中で、「親が発達障害だったから」という点に気づくことができれば、不安や疑問に終止符を打つことができます。
大人のカサンドラ症候群同様、元・子供にとっても、原因がわかるだけでスッと心が軽くなることはよくあることです。
・子供の発達障害が、親から受け継いだ先天的な特性なのか、親の行動によって後天的に発達障害的な言動になってしまうのか、判然としないケースもあります。
・「母子密着」で子供の社会化が遅れる。
・その親(発達障害)と今も同居が続いている、もしくはまだ行き来があって、そのつど不愉快な思いをしているならば、発達障害についてより詳しい知識を得ることをお勧めします。理解が深まれば、過去の理不尽な体験にはきちんと理由があったのだ、ということがわかります。
・大人になってからよく見られるのが、「親がひどい人だったか、私の人生はうまくいかないのだ」という思いです。自分の問題を解決できないときに、親を悪者にすることで先送りをする、これも(親の理解を阻む)フィルターになります。
・親はどんな人
・生い立ちと背景を知る
・(親の育った)環境の影響、疾患の可能性
・うつ病の「三大妄想」
・心気妄想 自分は重い病気で、家族はそれを自分に隠しているのかも
・罪業妄想 自分は悪い人間だという妄想
・貧困妄想 実際にお金はあるのに「お金がない、ない」という不安に駆られる妄想
・「不安障害」には三つのタイプがある
・パニック障害
・社交不安障害
・全般性不安障害
・過去は変えられませんが、解釈し直し、書き換えていくことは可能です。
・患者さんと話していても、世代差を加味せずに判断が偏っていることがよくあり、そのつど、治療は停滞します。そこを越えていくには、「今なら許されないけれど、当時はそういう時代だった」という視点を持つことが必要です。
・我々が不安やストレスを感じているというなら、予測が正確になるように、正しい知識をインストールしてあげる必要があるし、親子問題に関しても、正しい知識をインストールすることで、親にストレスや悩みが減る、という理屈であり、本書の仮説なのです。
さまざまな選択肢があります。
「親にも、どうしようもない事情があったのだ」と考えて和解に至るという道。
「事情があるのはわかったが、それでも許せない」と考えて絶縁を選ぶという道。
「距離を置く」という中間的な選択もあります。その「距離」も、どの程度が適切なのかは一人ひとり違います。
どれを選ぶかは患者さんの自由です。
・深く怨み続けるエネルギーと時間があるなら、それを自分のために使うほうがいいと思う人のおうが多いでしょう。
・和解の道は一見難しいように思えますが、多くの人が「楽になった」と感じるようです。
・「まあ、仕方ない」は、実はどんな人もたどり着くものです。一つや二つではなく、何十、何百と妥協点を見つけて、着地します。
・優れているから尊厳があるわけでも、人の役に立っているから尊厳があるわけでもなく、この場を生きていることに僕らの尊厳があるのだと思います。
感想;
自分のメンタルな問題は、親のメンタルの問題が関係している場合が多いのかもしれません。そして親も悩む、弱い一人だったと知ることで親に対する憎しみも少しは和らぐのかもしれません。そう思えると自分のメンタルな問題は少し楽になるのでしょう。
親を憎むことよりも、過去を悔やむより、親のことを知り、そしてこれからどうするかを考えていくことにエネルギーを使うことを著者は勧められていました。
遠野なぎこ著『一度も愛してくれなかった母へ、一度も愛せなかった男たちへ』
遠野なぎこさんは、母を捨てたと。そして愛を男性に求めてもそれに応えてくれる男性は現れない。
佐野洋子著『シズコさん』
佐野洋子さんはこの本を書いたことで、母のことを和解できたと。
中山千夏著『幸子さんと私―ある母娘の症例』
中山千夏さんは母の死後、この本を書いたことで、自分を納得させることができたと。
ホストに疑似恋愛とわかっていても求めて、風俗でお金を稼いでまでつぎ込むのは、ひょっとして、愛情に飢えているのかもしれません。
書くことは吐き出すことなのでしょう。
書くことで自分では何ともできない心の辛さを癒してくれるのでしょう。
この本は過去に問題があっても、それを何とか自分に納得させて、今からを大切に生きて欲しいとの著者のメッセージと受け取りました。
程度の問題はあっても、過去に囚われて、そして未来を心配して生きています。お釈迦さんがいう「過去も未来もない。あるのは今だけ」をどれだけ実践できるかなのでしょう。そして過去を今のために活用し、今が未来をより安心させることにつながると心から思えて今を大切にして一歩一歩歩めるかどうかなのかもしれません。