漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0009

2019-11-08 07:00:55 | 古今和歌集

かすみたち このめもはるの ゆきふれば はななきさとも はなぞちりける

霞立ち 木の芽もはるの 雪降れば 花なき里も 花ぞ散りける


紀貫之




 霞が立って木の芽が張る、そんな春に雪がふると、まだ花が咲いていない里にも花が散ることよ。

 00060007 と同じく、雪を花に見立てる趣向。「はる」を「木の芽が張る」と「春の雪」の両方の意味で用いる「掛詞(かけことば)」の手法が用いられています。同音異義語がたくさんある日本語ならではの技法ですね。同様な技法が存在する他の言語はあるのでしょうか。
 0003 にも出てきましたが、霞は春の到来を告げる景物。霞は立ったけれど同時に雪が降るという春まだ浅い時期の情景が、その雪を散る花に見立てることで、一気に晩春の情景へと切り替わります。この歌が詠まれた実際の時節はもちろん早春の方であり、風に花が舞い散る光景は貫之の想像の中でのものですね。0002 では一つの歌の中に夏・冬・春の3つの季節が詠み込まれていましたが、こちらは初春から晩春への一瞬の転換。短いフレーズの中に時の移ろいを織り込むことが、貫之の歌風の一つと言えるでしょうか。そんな観点で改めて他の歌も味わってみたいと思います。