漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0013

2019-11-12 07:01:04 | 古今和歌集

はなのかを かぜのたよりに たぐへてぞ うぐひすさそふ しるべにはやる

花の香を 風のたよりに たぐへてぞ 鶯誘ふ しるべにはやる


紀友則




 花の香を風に寄り添わせて、鶯を誘う道案内を送ろう。

 鶯を誘うには春の暖かい風だけでは足りないから、花の香も添えようという趣向。春を象徴する鶯の来訪を待ちわびる気持ち。
 作者の紀友則は古今集の撰者の一人。三十六歌仙にも名を連ねています。本来、選者の筆頭格であったと思われますが、撰修の途上で没したため、以後は貫之が選者の中心となったようです。古今集には貫之、凡河内躬恒に次いで多い45首が採録。中でも、百人一首にも採られている次の歌は余りにも有名ですね。古今集では 0084 です。

ひさかたの ひかりのどけき はるのひに しずごころなく はなのちるらむ

ひさかたの 光のどけき 春の日に 静心なく 花の散るらむ



 また、08380839 には、「紀友則が身まかりにける時よめる」と題して、

あすしらぬ わがみとおもへど くれぬまの けふはひとこそ かなしかりけれ

明日知らぬ わが身と思へど 暮れぬ間の 今日は人こそ かなしかりけれ

紀貫之


ときしもあれ あきやはひとの わかるべき あるをみるだに こひしきものを

時しもあれ 秋やは人の 別るべき あるを見るだに 恋しきものを

壬生忠岑


の二首が載っています。「身まかる」とは没する意で、選者である紀友則の死を悼む歌が当の古今集に載っているということですから、友則は古今集の完成を待たず、撰修の途中で没したと考えるのが妥当なのでしょう。(もちろん、この二首が完成後の増補の形で後から加えられた可能性もありますけれど。)