はるがすみ たつをみすてて ゆくかりは はななきさとに すみやならへる
春霞 立つを見すてて ゆく雁は 花なき里に すみやならへる
伊勢
春霞が立つのにそれを見捨てて行ってしまう雁は、花のない里に住み慣れているのでありましょうか。
作者の伊勢は平安時代の女性歌人で三十六歌仙の一人。古今和歌集にも22首と多くの歌が入集していて、そのうち1,001番は古今集全体で5首しか採録のない長歌です。22首という数は、女流歌人では最多で、また、古今集には入っていませんが、百人一首にも
なにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや
難波潟 みじかき芦の ふしの間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとや
(難波潟の芦の、その短い節と節の間のようなほんのわずかな間も逢わないままにこの世を終えてしまえと、あなたは私に言うのでしょうか。)
という激しい恋情を綴った歌が採録されていますね。情熱的な恋歌で知られる歌人です。