さくらばな ちりぬるかぜの なごりには みづなきそらに なみぞたちける
桜花 散るぬる風の なごりには 水なき空に 波ぞたちける
紀貫之
風で桜花が散ってしまったあとのなごりに、まるで水のない空に波が立っているかのようだ。
散って空を舞っている桜の花びらの残像がまだ目に残っていて、もちろん水などない空にまるで波が立っているように見える(感じられる)。すべて散り切ってしまって、実際にはもう花びらは舞っていないとの解釈が普通のようですが、私には、まさに名残を惜しむかのように最後のひとひら、ふたひらがちらちらと舞っていて、そこにたくさんの花びらの残像が重なって見えている情景のように思えました。いずれにしても、詩人の豊かな感受性が凝縮した一首。貫之を代表する名歌の一つだと思います。
0049 からここまでが桜を詠んだ歌。次の 0090 からは、種類が特定されない「花」の歌群が続きます。