ちはやぶる かみなづきとや けさよりは くもりもあへず
はつしぐれ もみぢとともに ふるさとの よしののやまの
やまあらしも さむくひごとに なりゆけば たまのをとけて
こきちらし あられみだれて しもこほり いやかたまれる
にはのおもに むらむらみゆる ふゆくさの うへにふりしく
しらゆきの つもりつもりて あらたまの としをあまたも
すぐしつるかな
ちはやぶる 神無月とや けさよりは くもりもあへず
初時雨 紅葉とともに ふるさとの 吉野の山の
山嵐も 寒く日ごとに なりゆけば 玉の緒とけて
こき散らし 霰乱れて 霜こほり いやかたまれる
庭のおもに むらむら見ゆる 冬草の 上に降りしく
白雪の 積もり積もりて あらたまの 年をあまたも
過ぐしつるかな
凡河内躬恒
十月になったからというわけか、今朝からは、すっかり曇りきりもせずに、初時雨が紅葉とともに振り、古都に吹く吉野山からの山嵐の風も、日ごとに寒くなってゆくので、玉の緒がほどけて玉をしごき散らしたように霰が散り乱れて、霜が凍り、いよいよ凍てついて固まっている庭の地面に、あちこちに見える冬草の上に降りしきる白雪が積もりに積もって、そうして年を重ねて、私も多くの年を過ごしてきてしまったのです。
1002 の貫之歌、1003 の忠岑歌に続いて、撰者の一人である躬恒の歌。古今集の詞書は「冬の長歌」ですが、「躬恒集」では「大内に奉りたる長歌」とありますし、古今集での配置場所からしても、この歌も古今集奉呈に添えた歌なのかもしれません。