みなひとは はなのころもに なりぬなり こけのたもとよ かわきだにせよ
みな人は 花の衣に なりぬなり 苔のたもとよ かわきだにせよ
僧正遍昭
世の人々は喪が明けて、華やかな服に改めたという。私の今後も改まることのない僧衣よ、せめて涙に濡れる袂が乾くだけでもしてほしい。
少し長い詞書には「深草の帝の御時に、蔵人頭にて夜昼なれつかまつりけるを、諒闇になりにければ、さらに世にもまじらずして、比叡の山にのぼりて、頭おろしてけり。そのまたの年、みな人御服脱ぎて、あるは冠賜りなど、よろこびけるを聞きてよめる」とあります。仕えていた仁明天皇の崩御を契機に出家した自分は、月日が経過して喪が明け、世間の人々が華やかないでたちに戻るときが来ても悲しみは癒えず、涙で僧衣の袂を濡らしている、ということですね。「苔」は僧衣の意。「花の衣」と「苔の衣」の対比の構図です。