漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 096

2023-07-21 05:29:59 | 貫之集

九月つごもり

もみぢばは わかれををしみ あきかぜは けふやみむろの やまをこゆらむ

もみぢ葉は 別れを惜しみ 秋風は 今日や三室の 山を越ゆらむ

 

9月末日

紅葉は秋との別れを惜しんでいるが、秋風は三室の山を越えて去っていくのであるよ。

 

 散って少なくなっているけれども散り切らずに枝に残っている紅葉の葉の情景(屏風絵)でしょうか。その紅葉の葉を擬人化して秋との別れを惜しんでいるととらえ、一方で「秋風が三室山を越えて行く」との表現で、着実に冬が近づいていることを詠み込んでいます。

 

 4月から毎日一首ずつご紹介してきた貫之集の歌。本日で第一巻が終了して明日からは「第二」の名歌たちのご紹介。変わらずおつきあいください。

 


貫之集 095

2023-07-20 05:50:37 | 貫之集

滝あるところ

まつのおと ことにしらぶる やまかぜは たきのいとをや すげてひくらむ

松の音 琴にしらぶる 山風は 滝の糸をや すげて弾くらむ

 

滝のある場所

松籟が、山風が琴を奏でているかのように聞こえるのは、滝の水を糸にしてすげて弾いているのであろう。

 

 094 が藤、本歌が滝を題材とした歌ですが、この藤ー滝の配列は 062063177178191192 にも見られます。古今集が明らかに周到な意図をもって歌が配列されていたことが想起されますが、この貫之集も、基本的に各カテゴリの歌が詠まれた順に並べられている中で、細かい部分ではやはり一定の意図が配列に反映されているようです。


貫之集 094

2023-07-19 05:26:20 | 貫之集

池のほとりに藤の花のあるところ

いけみづに さきたるふぢの かぜふけば なみのうへにたつ なみかとぞみる

池水に 咲きたる藤の 風吹けば 波のうへに立つ 波かとぞ見る

 

池の水の上に咲く藤の花が風が吹くと揺れて、波の上に立つ波であるかのように見える。

 

 貫之歌で「池の水」「藤」と来れば、水面に映る藤の花を詠んだ歌かとおもいきや、水の上方で揺れる藤を波と見立てての詠歌でした。池の上に張り出すようにして咲き誇る藤を、さらにその上から見下ろしての構図でしょうか。


貫之集 093

2023-07-18 05:04:15 | 貫之集

あだなりと おもふものから さくらばな みゆるところは やすくやはゆく

あだなりと 思ふものから 桜花 見ゆるところは やすくやはゆく

 

桜の花はどうせすぐに散ってしまうと思うものの、だからこそその美しさに惹かれて、見えるところをあっさり通り過ぎることはできないのであるよ。

 

 「あだなり」は「徒なり」で、ここではうつろいやすくはかない意。
 花はすぐに散ってしまうけれども、それゆえに人は心を惹かれるという歌意は、古今集0101 にも通じますね。

 

さくはなは ちくさながらに あだなれど たれかははるを うらみはてたる

咲く花は ちくさながらに あだなれど 誰かは春を うらみはてたる


藤原興風


貫之集 092

2023-07-17 04:45:45 | 貫之集

道行く人、桜のもとにとまれる

たまぼこの みちはなほまだ とほけれど さくらをみれば ながゐしぬべし

玉ぼこの 道はなほまだ 遠けれど 桜を見れば 長居しぬべし

 

行く先の道はまだなお遠いけれど、桜の花を見ると、つい長くそこにとどまってしまうのだろう。

 

 「玉ぼこの」は「道」「里」にかかる枕詞。咲き誇る桜の木のもとに旅人が立ち止まる屏風絵なのでしょう。美しく咲く桜を見ると人が思わず足を止めてしまうのは、今も昔も変わらないのですね。 ^^