漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 145

2023-09-08 06:03:15 | 貫之集

四月大神の祭の使

いづれをか しるしとおもはむ みわのやま みえとみゆるは すぎにざりけり

いづれをか しるしと思はむ 三輪の山 見えと見ゆるは 杉にざりけり

 

四月、大神神社の祭の使い

どの杉を目印と思えば良いのだろう。三輪山は見える限り一帯が杉の木で、神社の入り口がどこなのかわからない。

 

 大神(おおみわ)神社は三輪山をご神体とする神社で、その祭礼は四月、十二月に執り行われます。「使」は、祭礼に際して朝廷から遣わされる奉幣使のこと。三輪山は全体が杉の木に覆われていて、杉が目印だと言われてもどこが入り口なのかわからないというこの歌は、古今集0982 のよみ人知らずの歌(三輪明神の神詠と言われています)を踏まえたもので、拾遺和歌集(巻第十九「雑恋」 第1266番)にも入集しています。

 

わがいほは みわのやまもと こひしくは とぶらひきませ すぎたてるかど

わが庵は 三輪の山もと 恋しくは とぶらひ来ませ 杉立てる門

 

よみ人知らず

(古今和歌集 巻第十八「雑歌下」 第982番)


貫之集 144

2023-09-07 06:19:22 | 貫之集

三月つごもりの日、花落つるところ

ちるはなの もとにきつつぞ いとどしく はるのをしさも まさるべらなる

散る花の もとに来つつぞ いとどしく 春の惜しさも まさるべらなる

 

三月の末日、花が落ちるところ

散る花の木の下に来ると、いっそう春の名残惜しさが増す思いがする。

 

 「つごもり」は漢字で書けば「晦日」「晦」。月末だけでなく、終わりごろ、下旬を意味する場合もあります。


貫之集 143

2023-09-06 04:20:54 | 貫之集

三月山寺に参る

あしひきの やまをゆきかひ ひとしれず おもふこころの こともならなむ

あしひきの 山を行きかひ 人しれず 思ふ心の こともならなむ

 

三月に山寺に参詣する

山路を行き来して山寺を詣で、人知れぬ心の中の願い事が成就しますように。

 

 「あしひきの」は「山」にかかる枕詞。3月ともなれば雪深い地の山寺にも参詣できる季節ともなるのでしょう。


貫之集 142

2023-09-05 05:20:06 | 貫之集

田かへすところ

わすらるる ときしなけれは はるのたを かへすがへすぞ ひとはこひしき

忘らるる ときしなければ 春の田を かへすがへすぞ 人は恋ひしき

 

田を耕すところ

あの人を忘れるときなどありはしないから、農夫が春の田を返すのを見るにつけ、返す返すもあの人を恋しく思うのであるよ。

 

 第四句「かへす」が「(田を)かへす」と「かへす(がへす)」の掛詞になっていて、本歌を印象づけていますね。私は古典和歌ばかりに興味があって、現代短歌は読んだことすらないのですが、現代短歌にもこうしたレトリックは生きているのでしょうか。掛詞はかな書きならではという面もありますから、あまり用いられることはないのかな?

 この歌は、拾遺和歌集(巻第十三「恋三」 第811番)にも入集しています。