漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

貫之集 141

2023-09-04 05:39:31 | 貫之集

二月梅の花見るところ

やまざとに すむかひあるは むめのはな みつつうぐひす きくにぞありける

山里に 住むかひあるは 梅の花 見つつ鶯 聞くにぞありける

 

二月に梅の花を見ているところ

山里に住む甲斐は、梅の花を見ながら鶯の声を聞くところにあるのだ。

 

 梅の花と鶯の組み合わせは古典和歌の定番ですね。古今集0015 には、花が咲かない里では鶯の声も物憂げだという歌もあります。

 

はるたてど はなもにほはぬ やまざとは ものうかるねに うぐひすぞなく

春立てど 花もにほはぬ 山里は ものうかる音に 鶯ぞ鳴く


在原棟梁


貫之集 140

2023-09-03 05:40:20 | 貫之集

子の日

もとよりの まつをばおきて けふはなほ おきふしはるの いろをこそみれ

もとよりの 松をばおきて 今日はなほ おきふし春の 色をこそ見れ

 

子の日

もともとそこにある松のめでたさはさておき、今日は新しく引いた子の日の小松にこそ春の色を感じましょう。

 

 「子の日」は「ねのび」と濁って読み、「根延び」に掛けて根が長く延びる小松を引き抜いたり若菜を摘んだりして、宴を催して長寿を祝う行事のこと。003 を始め、貫之集でも繰り返し登場していますね。


貫之集 139

2023-09-02 05:39:33 | 貫之集

延長二年五月、中宮の御屏風の和歌、二十六首

集まりて、元日、酒のむところ

きのふより をちをばしらず ももとせの はるのはじめは けふにぞありける

昨日より をちをば知らず 百年の 春のはじめは 今日にぞありける

 

延長二年(924年)五月、中宮様に奉呈した屏風歌二十六首

集まって元日に酒を飲んでいるところ

昨日よりも以前のことはさておき、これから百年も続くご長寿の最初の春が今日という日なのです。

 

 「中宮」は第60代醍醐天皇の中宮藤原穏子(ふじわら の おんし/やすこ)を指します。「二十六首」とありますが、実際には二十二首の採録です。中宮の長寿を願う歌ですが、考えて見れば昔はいわゆる数え年で、元日には全員が一つ歳を重ねたわけですから、元日を祝う感覚は現代よりもずっと大きかったのでしょうね。

 


貫之集 138

2023-09-01 05:54:18 | 貫之集

雪の降れる

はるこねど くさきにはなの さくほどは ふりくるゆきの こころなりけり

春こねど 草木に花の 咲くほどは 降りくる雪の こころなりけり

 

雪が降っている

春はまだ来ないけれども、草木に積もった雪で花が咲いているように見えるのは、雪の心遣いなのであろう。

 

 まだ春は来ない、従って実際には花は咲いていないのだけれども、降る雪が枝に積もって、まるで花が咲いたように見える。そこまでは良くある雪を花と見立てる描写ですが、それを春を待ちわびる人々の思いに対する雪の心遣いととらえる発想が素敵ですね。^^