
ここのところ、レイモンド・チャンドラーの初期の作品、『さらば愛しき女よ』を読んでいます。
チャンドラーは一昨年『ロング・グッドバイ』を読んでいたく新鮮な気分になったのですが、最近続けてハメットのハードボイルド小説を読んでみて、つくづくこのジャンルが自分の好みに合う気がしたものですから、チャンドラーの方も少し読み込んでみたいと思った次第です。
実はまだ最後まで読んでいないのですが、どうしてもご紹介したい箇所が出てきました。一人称で語られる主人公の私立探偵フィリップ・マーロウが、例によって事件に巻き込まれて悪者たちに監禁され、絶体絶命のピンチからようやく脱出して自分の家に帰ってきた時の描写。
"I unlocked the door of my apartment and went in and sniffed the smell of it, just standing there, against the door for a little while before I put the light on. A homely smell, a smell of dust and tobacco smoke, the smell of a world where men live, and keep on living."
私が打たれたのはその後半。自分の部屋の「なつかしい匂い。埃とタバコの煙の匂い。男が生きる世界、そして男が生き続ける世界の匂い。」
感情とは距離を取った硬質な文体のなかに突如現われる嗅覚的な描写。文字通り、一気に人間臭くなります。ここら辺がとてつもなくカッコいいと思ってしまうのは私だけでしょうか。
残り約70ページ、ちょうどマーロウの反撃が始まるところです。通常読むのは通勤の行き帰りだけで、休日に家では読まないようにしているのですが、今回はどうもその禁を破ってしまいそうな勢いです。
Raymond Chandler,
Farewell, My Lovely
(Penguin Books)
文面のリズムカルな響きに煙草の香りがしてきますね
初恋の人がピース缶を吸っていたので部屋に積まれたペーパーバックや雨の音まで思いだしました…
私も学生時代に読んだペーパーバックを手に取ると、
埃の匂いに昔の下宿やその頃つきあっていた友だちを思い出します。
あぁ懐かしい・・・