ホンダが11月6日に発表した2025年3月期第2四半期の決算を見れば、日本や米国がそれなりには堅調なのに対し、中国はこの第2四半期累計で前年62.4%、純粋に第2四半期のみを見れば前年比57.1%と落ち込んでいる。トヨタも日産も同じようなもので、我が国自動車大手は昨年あたりから言われているように中国市場で苦戦している。
もちろん、その背景には、中国におけるEV化の進展(特に新車販売における)があるが、それだけではない想定を超えた落ち込み、景気そのものの一段の冷え込み、が起きているのではないか、と思わせるものが、やりとりに滲んでいる。
中国の公式的な発表では、2024年7月~9月期の実質GDPの成長率は前年同期比で+4.6%、4月~6月期のそれは+4.7%になっている。これはこれまでの成長に比べれば大きな減速を感じさせる数字ではあるし、政府目標にも達していない数字だ。しかし、他国比較からすれば、十分な成長と言える数字になる。
だが、本当にそれは信頼に足る数字なのだろうか。
中国人の消費低迷で資生堂は大幅減益
EV化などの理由が見当たらない別の業界における中国事業の現在を観察することが必要だろう。中国当局の関与や操作ができないという意味で、日本の中国進出企業の決算報告から中国事業の現状を追い、そこから中国経済の現状を推察することには意味がある。何故なら、そこには当局が糊塗しきれなかった生々しい実態が横たわっている筈だからだ。
その意味で注目すべきは、11月7日に発表された資生堂の2024年12月期第3四半期の決算発表になるだろう。そこで資生堂は中国事業と中国人の旅行者を主たる顧客とするトラベルリテール部門(空港などでの免税店でのリテール)の低迷から通期の連結営業利益予想を当初220億円から60億円に72.7%下方修正した(前期比では72.4%の減益)。また、3Qの累計で言えば、営業利益は21憶83百万円で、これは前年同期比で-91.5%の水準という落ち込みになっている。率直にかなり激しい落ち込みだ。決算説明会の資料の、2024年12月期第3四半期決算のポイントを説明したスライドで、トラベルリテール・中国には、「3Qは想定以上の中国人の消費低下により減収幅拡大」の記載がある。資生堂のフォロワーであれば、中国市場が、日本市場と同じ規模を持つ重要な市場であることは自明のことだろう。その柱である中国の不振は、そのまま資生堂の業績に大きな影響を与える。
業態問わず「さらなる減速」に襲われている
想定以上の落ち込み、という表現で言えば、楽器のヤマハは11月1日に2025年3月期第2四半期の決算を発表したが、同日に通期予想を修正、営業利益で言えば、当初445億円予想を270億円にと引き下げた。その理由の大きなものとして「ピアノをはじめとした中国市場のさらなる減速の織り込み」を挙げている。
ヤマハの決算説明会資料で、地域別販売状況によると、4つの地域に分けられたデータで、日本が2023年3月期対比2025年3月期予想が98%、北米が95%、その他が103%とほぼ横ばいを見込んでいるのに対して、中国のそれは64%と落ち込んでいる。しかも対前期82%と持ちこたえていた2024年3月期の実績値から一気に18ポイントも落ち込んでいる。まさに「さらなる減速」という表現そのままだ。
このような減速に直面しているのは、ヤマハだけではない。
例えば他にも住設機器、ウォシュレットのTOTOも10月28日、2025年3月期第2四半期決算の発表と共に、中国大陸事業の不振から通期業績について売上高を7,500億円から7,300億円に、当期利益を375億円から360億円に修正している。
TOTOの2025年3月期第2四半期決算説明資料から海外住設事業の地域別の業績が示されたスライドになるが、米州、アジア、欧州が計画比、米州105%、アジア103%、欧州104%と計画を上回ったのに対し、中国は92%と計画を下回っている。
他にも文具・家具のコクヨなども中国市場での苦戦を決算発表で伝えている。
トランプ次期政権が与えうる「深刻なダメージ」
自動車、化粧品、ピアノ、住設機器、このうち住設機器は不動産市況の低迷に直接的な影響を受けているのだろうが、ピアノや化粧品(特に化粧品)は中国の消費者が節約に本格的に入っていることを強く物語る。また、資本財についても、国策の影響でなお需要の強い半導体製造装置などを除けば、過剰投資の反動や補助金の打ち切りや縮小などの影響を受けて、中国市場で苦しむ日本企業が多いことは、様々な経済記事が伝える通りだ。
様々な業態の日本企業の決算が伝える中国経済や中国の現状には操作できない真実が宿っている。(3選はできないので)2025年1月からトランプ氏の最後の4年が始まろうとしている。何が起こるのか、何をするのか、それは或る意味市場が動くという意味で楽しみでもあるが、例えば氏が掲げてみせた中国製品に対する関税60%への引き上げなどが現実のものとなった場合、その政策が中国経済に与える影響は深刻なものになる。逆にそれは国民の意識を悲願の台湾統一という行動に向け扇動する要素になるかもしれないので、そうしたシナリオもまた現実のものとして経営者や投資家は(いや、我々は)考える必要もあるだろうが、その意味でも、これから先、中国にどう対峙するのか、判断を迫られるときがまもなく来る。