不動産業者の救済などで中国の銀行の収益性の低下が鮮明化している。
これまで、中国政府は不動産市況の悪化を食い止めるため、市中銀行に対し資金供給を増やすよう要請を強めてきた。具体的に、不動産デベロッパーに対する融資や、地方政府がマンション在庫を買い取り、リノベーションを実施する資金提供を政策的に促進した。
中国の不動産市場では、6,000万戸ものマンション在庫が存在するとの見方もある。国際通貨基金(IMF)は、今後4年間で未完成物件の工事完了など不動産問題の解決に、少なくとも約7兆元(約140兆円)の財政資金投入が必要と試算した。需要を上回るマンション供給で、今のところ不動産価格下げ止まりの兆候は見られない。
中国の金融緩和(利下げ、資金供給の増加など)は国債流通利回りの低下につながり、結果的に銀行の貸し出し金利を下押しする。財政支出の増加(国債の増発や地方政府の債務上限の引き上げなど)は、過剰な生産能力、鉄道や道路などの過剰投資に使われ、社会インフラでもある銀行の収益性を下押しているとみられる。
これまでのところ、規制緩和などによる需要創出策が進む兆しは見られない。
需要の不足が長引けば、景気回復の期待は高まらず、消費者、投資家、企業経営者のリスク許容度は低下する。不動産業界、地方政府と傘下の地方融資平台などの不良債権残高は増え、商業銀行の金融仲介機能は低下するだろう。来年1月20日以降、トランプ政権の中国締め付け策が本格化する可能性も高い。
これまでの成長プロセスが限界を迎えた
9月下旬以降、中国政府は総合的な経済対策を拡充した。
10月、政府は国債の増発を発表。中央銀行である中国人民銀行は、期間1年の新たな資金供給オペも設定した。11月4日から8日の全国人民代表大会の常務委員会は、地方政府に債券の発行増加を容認した。地方債の発行で調達した資金は、インフラ投資や地方融資平台の資金繰り確保、マンション在庫の買入などに使われるようだ。
また、9月下旬の利下げや財政出動により、一時的に北京や上海などの大都市で一部の不動産価格が反発する兆しは出たようだった。それでも価格が本格的に持ち直す状況になっていないし、さらに下がり出した。
10月、ドル建ての輸入は前年同月比2.3%減少した。自動車の部品や化粧品が減少し、個人消費にかつての勢いはない。価格の影響もあったが、原油、鉄鉱石などの輸入も減少している。
不動産投資で高成長を実現する中国の経済成長のプロセスは限界を迎え、消費などの需要の不足は深刻だ。過去、不動産投資の過熱によって大規模なバブルが発生し、マンション建設(投資)や基礎資材の生産も増えた。
それに伴い、土地需要も増え、地方政府はデベロッパーに土地利用権を譲渡して歳入を確保し、産業補助金やインフラ投資に再配分した。
こうした熱狂は商業銀行などの利ザヤの厚さを支えた。
2019年1~3月期、大手商業銀行の純金利マージンは2.12%だった。(純金利マージンとは、資金調達の金利と、貸し出しなどによる資金運用の利回りの差をいう。)2021年まで中国商業銀行は純金利マージン2%台を維持していた。
しかし、2020年8月の不動産融資規制の実施で、中国の不動産バブルは崩壊した。
芳しくない銀行の収益性
家計の貯蓄の7割程度が不動産投資に向かったとみられるが、住宅など資産価格下落は鮮明化。不動産市況の悪化から住宅の価値は下落し、雇用・所得環境の先行き不安も高まった。個人や企業は先行きのリスクに備え、債務返済を優先せざるを得ない状況だ。
土地利用権の需要減少で地方政府の財政も悪化した。地方政府の隠れ債務である地方融資平台の債務問題も深刻だ。鉄鋼、太陽光パネル、リチウムイオンバッテリー、エアコン、電気自動車(EV)、建機などの過剰生産能力の膨張にも歯止めがかからない。
その結果、経済全体で資金需要は伸び悩み、商業銀行の純金利マージンは低下した。
2022年1~3月期、純金利マージンは1.97%まで低下した。2023年1~3月期は1.74%に低下し、健全な銀行経営の維持に必要とされる、利ザヤ水準(1.8%)を下回った。さらに2023年10~12月期の純金利マージンは1.69%に低下した。
そして2024年7~9月期、四大国有銀行の一つである中国銀行の純金利マージンは1.41%、前期から0.03ポイントの低下だ。
10月、中国政府は地方政府による住宅在庫の買い取り資金規模を4兆元(80兆円)規模に拡充し、不動産市況の悪化を食い止めようとした。政府は、銀行に買い取り資金の融資を増やすよう指示した。これも銀行の利ザヤ圧縮の要因だろう。すう勢として中国商業銀行セクターの収益性は低下傾向だ。
中国不動産バブル崩壊のツケは今後世界経済も一部巻き込み更に拡大していくだろう。