コンビニ業界のカリスマのご宣託です。変化を当たり前と捉えないと小売りや流通業界はやっていけない。これはすべての事に通じることなのかもしれません。人間が作り出したすべての物は世の中に合わせて変化させなくてはいけない。
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「流通崩壊? そんな大げさなものではないと思いますよ。
アマゾンとヤマトの問題(当日配送やドライバーの人手不足)もそう。今、物流業界は『転換点』なんて言われているけど、要するに、時代が変わっていくにつれて、消費者のニーズも変化しているだけ。当たり前のことですよ」
こう語るのは、株式会社セブン&アイHD元会長で現在、名誉顧問の鈴木敏文氏だ。
突然の会長引退劇から1年が経つ現在も、本社からほど近くにあるホテルニューオータニに個人的なオフィスを構え、そちらに毎日出勤している。
御年84歳になる鈴木氏だが、今でも週に一回は自宅付近のセブンイレブンに買い物に訪れ、店舗の様子や商品のチェックを欠かさない。
鈴木氏がしっかりとした足取りで入店すると、入り口近くにいた若い女性店員がすぐに気付いて笑顔で挨拶。店員は、カゴを持ちながら鈴木氏に付き添うようにして店内を巡り、時折、鈴木氏の質問に答えていた。
15分ほどかけてじっくりと店内を回ると、鈴木氏はプライベートブランドの「金の食パン」やおにぎりなど、大量の食品を購入。大きなレジ袋2つを手に携えて、店を後にした。
帰り道、本誌記者が取材を申し込むと「少しだけなら」と承諾してくれた。
――今後、日本の流通はどうなっていくのでしょうか。
「小売物流は、これからもっと変わっていくと思いますよ。昔、街中にはたくさんの商店があって、モノが売れる時代が来てからスーパーマーケットができるようになった。
だから、みんなは『これからはスーパーの時代だ』って言ってたけど、でも僕はそうじゃない、と思ってセブンイレブンを作った。当初はみんな冷ややかな目で見ていたけど、今やコンビニは欠かせないものになった。つまり、変化を当たり前と思わなきゃ、小売りや流通ビジネスはやっていけないんですよ」
「全部予見できたことです」
――セブンイレブンが西濃運輸と業務提携するのも「変化に対応するため」ということでしょうか。
「今一世帯あたりの人数が減って、高齢化も進行している。そうすると、いちいち買い物に出かけることが困難になってくる。
だから配送サービスに力を入れるのは当たり前のこと。人手不足だなんだと言いますが、人々が宅配を求めているのだから、それに応えないと生き残れない。
こういった時代が来ることは、全部予見できたことです。だから僕は20年も前から宅配をやってきた」
――鈴木さんがセブンイレブンの会長時代に肝いりで始めた「オムニ7」(実店舗とネット販売を連携し、複数のチャネルで顧客と接点を持ち購買につなげる戦略)についてはどうですか? ネットで購入した商品をセブンの店頭で受け取れるようにするなど、改革は進んでいるように見えますが。
「まだまだ全然だね。みんな言葉では『オムニ、オムニ』って言っているけど、本当のオムニ戦略をわかっていない。
つまるところオムニ戦略とは、ただのネットとリアルの融合ではなくて新しい『商品開発』なんですよ。でも今の経営陣は、ネットばかり考えているから、そういう発想が生まれてこない。
今の時代の消費者が求めている商品を、もっともっと開発していかないといけない」
そう力強く話すと、鈴木氏は自宅へと戻って行った。
目標は常に高く、それを達成するために厳しいハードルを課す――カリスマ経営者の「胆力」はいまだ健在だ。