円買い・ドル売り介入は、手持ちのドルを売ることで実施される。原資となるのは、基本的に外国為替特別会計で保有している外貨準備のドル資金だ。 円安誘導のためのドル買い・円売り介入は、事実上、無制限に円資金を調達でき、効果が出るまで介入を続けることができるが、円高誘導のためのドル売り・円買い介入では、ドル資金には限界がある。 財務省の「外貨準備等の状況」によると、23年9月末時点の外貨準備は1兆2372億ドル。そのうち、ドル売り介入のために“すぐに使えるドル”の手持ちは預金などになるが、その残高は2000億ドル程度で全体の20%に満たない。 残りの約79%は、米国債を中心とした債券などで運用されている。 BIS(国際決済銀行)が3年に1度行う調査では、22年4月の1日あたりの世界の外国為替市場の取引額は、7兆5084億ドルで、このうちドル・円の取引額は1兆136億ドルだ。 外貨準備の総額は、1日のドル・円取引額を多少上回る程度で、すぐに使えるドルの手持ち額は、1日のドル・円取引額に遠く及ばない。 円安の相場の流れを変えるのには、十分な額とは到底言えない。となれば、ドル売り介入のためのドル資金を調達しなければならない。そのためには、保有している米国債を売却する必要があるのだが、ここにジレンマがあるのだ。
債券は価格が低下すると、利回りが上昇するため、米国債を売却すれば、米国の長期金利が上昇してしまう可能性があるのだ。 現在の円安進行の一因は、日米の金利差にあるが、円安進行を止め、円高に誘導するために行うドル売り・円買いの為替介入に必要なドル資金を調達するため、米国債の売却を行えば、米国の長期金利が上昇して、日米金利差が拡大することで、円安を加速させる可能性があるのだ。 為替介入を行うのには、日米の貿易不均衡(貿易摩擦)の解消など、さまざまな理由がある。97年には120円台で円高誘導のためにドル売り・円買い介入が行われている。一方で、02年には125円台で円安誘導のためにドル買い・円売りが行われている。 適当と考えられるドル・円の為替水準は、その時々の経済・社会情勢などで同じではない。現在は円安が輸入物価の上昇を引き起こしている一因と考えられていることで、円高誘導が必要と考えられているのだ。 ドル売り・円買い介入だけで円安進行を止め、円高に誘導するのは容易なことではない。 しかも、為替介入では一時的な円安抑止とはなっても、結果的にはほとんど効果がないことは明かだ。
国際通貨基金(IMF)は10月23日、23年の日本のGDP(国内総生産)はドイツに逆転されて、世界4位に転落するとの予想を発表しているのだ。 このように、日本経済が低迷する中で、円が買われる経済状況を作るのは一朝一夕にできるものではない。 それでも、為替介入を行ってまでも、円安進行を阻止する必要があるのならば、日米の金利差拡大を止め、縮小させるのがもっとも即効性がある。 つまり、現段階では、マイナス金利政策を終了することが最有力な方法だといえる。