読売新聞の 死刑の連載第3部です。
裁判官が 死刑という究極の結論に 達するまでの道筋をたどります。
静岡県三島市で02年に起きた 女子短大生焼殺事件。
当時19才だった被害者は、 見ず知らずの男に 車で拉致され、
乱暴されたあげく、 山中の路上で 体を縛られて、
灯油をかけられ 火をつけられました。
一審では 死刑求刑に対し、 無期懲役が選択されていましたが、
高裁の田尾裁判長は、 「あまりにひどい」 と思いました。
まじめに生きてきた人の命が こんな形で奪われる 不条理さ、やりきれなさ。
遺族感情は峻烈でした。
「 同じように火をつけて (被告を) 殺してやりたい。
どれだけ熱いか、 どれだけ怖いか、
どれだけ苦しかったか 思い知らせてやりたい。 」
田尾裁判長は 一審での死刑回避の理由を、 ひとつずつ検討していきました。
「 周到な計画に基づく 犯行ではない 」
「 被告の前科に 殺人などの犯罪は見当たらない 」
しかし被告は 少年院や刑務所に入り、 仮出所中に犯行に及んでいます。
一審が悩んだことは 分かりましたが、
それでも 犯行の残虐さは余りあります。
3人の裁判官の合議で、
被害者が一人でも 極刑しかないという 結論に到達しました。
死刑は 最も強烈な 権力の執行です。
判決はあくまでも 客観的な根拠に 基づかなければなりません。
今は退官した田尾氏も、 遺族感情はそれほど 重視しなかったと明かします。
判決文も 感情的な言い回しを 極力避けました。
ただ一言だけ、 自身の心情を入れました。
「 苦悶のうちに 命を失うこととなった被害者の 短い一生を思うとき、
深い哀れみを 覚えざるを得ない 」
読み上げ中、 胸に込み上げるものがあり、
悟られまいと 必死でこらえました。
〔読売新聞より〕