「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

裁判長 「自分が遺族なら……」 -- 選択の重さ (1)

2009年05月16日 14時15分21秒 | 死刑制度と癒し
 
 読売新聞の 死刑の連載第3部です。

 裁判官が 死刑という究極の結論に 達するまでの道筋をたどります。


 静岡県三島市で02年に起きた 女子短大生焼殺事件。

 当時19才だった被害者は、 見ず知らずの男に 車で拉致され、

 乱暴されたあげく、 山中の路上で 体を縛られて、

 灯油をかけられ 火をつけられました。

 一審では 死刑求刑に対し、 無期懲役が選択されていましたが、

 高裁の田尾裁判長は、 「あまりにひどい」 と思いました。

 まじめに生きてきた人の命が こんな形で奪われる 不条理さ、やりきれなさ。

 遺族感情は峻烈でした。

「 同じように火をつけて (被告を) 殺してやりたい。

 どれだけ熱いか、 どれだけ怖いか、

 どれだけ苦しかったか 思い知らせてやりたい。 」

 田尾裁判長は 一審での死刑回避の理由を、 ひとつずつ検討していきました。

 「 周到な計画に基づく 犯行ではない 」

 「 被告の前科に 殺人などの犯罪は見当たらない 」

 しかし被告は 少年院や刑務所に入り、 仮出所中に犯行に及んでいます。

 一審が悩んだことは 分かりましたが、

 それでも 犯行の残虐さは余りあります。

 3人の裁判官の合議で、

 被害者が一人でも 極刑しかないという 結論に到達しました。

 死刑は 最も強烈な 権力の執行です。

 判決はあくまでも 客観的な根拠に 基づかなければなりません。

 今は退官した田尾氏も、 遺族感情はそれほど 重視しなかったと明かします。

 判決文も 感情的な言い回しを 極力避けました。

 ただ一言だけ、 自身の心情を入れました。

「 苦悶のうちに 命を失うこととなった被害者の 短い一生を思うとき、

 深い哀れみを 覚えざるを得ない 」

 読み上げ中、 胸に込み上げるものがあり、

 悟られまいと 必死でこらえました。

〔読売新聞より〕
 
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