大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 12月14日 戸襖が開く

2014-12-14 20:53:45 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 12月14日 戸襖が開く


 今からざっと50年前の話なワケだが、実母が東京で下宿していた。
その名の通り、普通の一軒家の2階に間借りで、大家は遠縁の叔母で、住み始めてしばらくしてソレは始まった。
 夜中に戸襖が開く。
今もそうだけど、やたら眠りの浅い母はちょっとした物音でも起きる。
それこそ衣擦れの音でも起きるくらいだ。
 戸襖が敷居を滑る音で、どうも起きたらしい。
もっとも初日から起きたかはわからない。
 それが毎晩続いて、最初こそ、

「 ああ、○○叔母さんのご主人かな?」

と思っていたそうだ。
それは、戸を開けて、そこに佇む人が男だと分かったからだ。

“ 遠縁の嫁入前の娘を預かってるから、様子見に来てるのかな?”

と母は思ったらしいが、それにしては、

“ なぜ声もかけないのか?”
“ なぜ、「 ○○叔父さん?」という母の問い掛けに答えないのか?”

と訝って、遂に叔母に聞いた。

「 毎晩様子を見に来るけど、どうしてなの?」

それを聞いた叔父と叔母の顔色が、取り繕いようもない程に一変した。

「 何時くらいか?」
「 開くのは戸襖だけか?」
「 女じゃなく男だったか?」

色々聞かれた後に教えてくれたのは、以前間借りしていた若い男の話だった。
 何度も旧帝大を受験して、何度目かに落ちた後、その部屋で首を吊ったそうだ。
物静かで真面目な人だったらしい。
 母は言った。

「 まだ、勉強しに帰ってきてるんだね。」

コレを聞いた自分は真っ先に、

「 すぐに引越ししたんだよね?」

って聞いたら、

「 東京引き上げるまで、ずっとそこに住んだ。」

と言った。
 ビビリな自分の、

「 なんでよ??」

の質問に、母は即座に答えた。

「 だって、お母さんその人になんにも悪いことしてないもん。
恨まれる筋合いないし、出てきても襖開けるだけだし、そのうち慣れたし。」

ヘビで気絶するくせに。











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