日々の恐怖 12月28日 キジムナーのいる風景
数十年前の話、小学校に行くかいかないかの頃だった。
父の実家が鹿児島南端の某島で、爺さんが死んだというので葬式に行った。
飛行機で沖縄経由で島に行き、父と激似の島民というか葬儀屋に案内され、はじめてその実家へ。
確か2月で、寒くは無いが、イメージしていた南国には遠く、曇りでどんよりしていた。
当時福岡に住んでいたので、親戚は会う人みな初対面で、ちょっと居場所が無かったのを覚えている。
そこの風習は土葬で、甕に入れるために爺さんが仰向けだが足をちょうど正座する状態でそのまま寝かされていた。
弔問客は皆、爺さんのひざに触る。
婆さんは、方言というか外国語というか、何を言っているか分からないが、どうやら、ひざに触ると爺さんが喜ぶとのこと。
死体に直に触るのをはばかれてか、タオルがかけられている。
まあ、そんなこんなで酒盛りなども経て、こちらでいう通夜はお開きになった。
南方の島の家というと、風通しの問題なのか、ほぼ畳敷きの広場といった風情だった。
よく見るとふすまの敷居もあり、普段は部屋が区切られるようだが、人が集まるということもあり、ふすまは全部取り払われ、長い縁側から大きな部屋に仕立てられていた。
そんな広間で、爺さん共々みんなで雑魚寝していた。
縁側のほうは雨戸が閉められ、うっすらとした常夜灯だけの夜、遠くから海の音が聞こえる。
20人ほどの親戚一同との雑魚寝で、なんとなく寝付けず悶々としていた。
何時だったか分からないが、多くの人が寝静まったと思われる頃、急に、雨戸、窓、玄関その他を誰かが、いや、大勢の人が叩き出したのだ。
“ ドンドンドンドン、ガシャガシャガシャガシャ。”
外から声は一切せず、ひたすら大勢の人が叩いている。
当然周りは何事かと起きだすのだが、ザワザワするだけで、騒ぐものもおらず、みな妙に冷静だった。
すると婆さんが一人でずかずかと雨戸に寄り、ガラリと開け放ち、
「 ひえ・・、んしう・・・・!」
と、何やら方言でわめき散らした。
どうも怒っているようだった。
すると音はピタリと止み、みな安心したようにすぐに寝入ってしまった。
なんだか夢の続きのようで、思わず婆さんに、
「 何・・・・?」
と聞いてみた。
婆さんは方言で優しげに頭を撫でながら何か言っていたが、言葉が分からない。
そばにいた親戚の女の人が通訳してくれたのは、次のような内容だった。
「 あれはキジムナーだ。
爺さんに会いに来たけれど、もう夜遅いから明日にしてくれ、と婆さんが追い払った。
キジムナーは、特に何もしないから寝ていいよ。」
それを聞いて、
“ 水木の妖怪辞典で見たキジムナーだ!”
とすぐに思い当たった。
それで安心して、そこからすぐに寝入ってしまった。
翌朝は葬式で、おそらく島中の人が来たと思われる人出だった。
神主が来て葬式が執り行われ、長い行列の中腹に甕が担がれ、出て行ったのを見送った。
子供がそれについていけなかったのは、それも何かの風習だろう。
後で島を散歩すると、砂浜の脇の小高い丘に小さな神棚が転々と置いてある。
海からの風を避けるように、草むらの脇に無秩序に並んでいる。
どうやらその下に甕が埋まっているようだ。
数年後に掘り出して、のど仏だけを墓に納めるらしい。
それには父だけが参加した。
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