日々の恐怖 9月23日 病院旧館の夜(1)
某県で医者をやってるけど、若手の頃に行かされてたとある精神病院の当直が非常に怖かった。
病院の構造をまず説明させてもらうと、全体にL字型の本館、Lの長辺の先端に新館が増設されている状態である。
当直室は、Lの角から外側に向かって事務区画となっておりその2階にあった。
本館・事務棟はおんぼろで、夜間は両建物共に照明が完全に落ちているので(ナースステーションという名の一部屋のみ除く)、夜間に呼び出された時はとても怖かった。
ある日のこと、新館の患者のことで深夜2時に呼び出された。
新館に行くためには上述のごとく真っ暗な本館を通らなければならない。
暗闇も怖いが、医者になりたての自分は正直精神病患者も怖かった。
実際は、意外に思われるかもしれないが、隔離室に入るような患者でなければ別に暴れたりということもない。
でも、ドアの鍵を開ける際はいつも傍に患者がいないか気を付けていた。
この日もこんな時間だし皆寝ているだろうと思いつつ、しっかりと建物のL字短辺・長辺に誰もいないことを確認してから、事務棟から本館へ入る。
新館への道すがら病室の扉が並んでいるが、昔ながらの学校の木製の引き戸を想像してもらえば話が早い。
怖いのでかなり早足で歩くが、明るい新館までは遠い。
そして、歩くうちに自分以外の足音が混ざっているのに気付いた。
自分が止まると一歩遅れてその足音も止まる。
後にも先にも全身が総毛立ったのはあの時だけだ。
にもかかわらず、頭のなかではやけに冷静に、
“ リアルひぐらしの鳴く頃にだ・・・・。”
などとの思いが浮かぶ。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ