日々の恐怖 6月19日 嫉妬(3)
彼女がバツの悪さを感じた時だった。
「 やだ、なにこれ!」
叫んだのは母親だった。
なんだなんだと彼女と祖母は母親の手元を覗き込んで、言葉を失った。
母親が開けていたのは三人官女の箱だった。
そのうちの一つの人形には、首から上がなく、おまけにまるで暴行を受けたように着物がめちゃくちゃに乱れ、あちこち破れていた。
「 ネズミかしら?」
「 他の箱はどう? 確認しなきゃ。」
慌てる祖母たちの横で、彼女はふと視線を感じた。
こわごわ振り返ると、お雛様が彼女を見ていた。
いつもどおりの取り澄ましたような顔だったが、その時はなんともいえず恐ろしく見えたという。
「 それからは、お雛様が怖くて怖くて。
でも自業自得でとても理由を言えないから、飾るなとも言えず。
毎年恐怖のひな祭りを過ごしました。」
「 人形の呪い、ですか?」
「 さぁ?
まぁ、ネズミや虫が人形を荒らす、なんてことは、後にも先にもないことでした。
もちろんその時も、ボロボロになった三人官女以外に被害はありませんでしたしね。」
彼女は肩をすくめて苦笑した。
「 でも呪いなら、三人官女じゃなくて私に災いが来ると思うんですよね。」
彼女の言葉に私は頷いた。
確かにその通りだ。
「 そうじゃなかったということは、呪いというより、嫉妬かな。」
「 嫉妬・・?」
「 自分以外の女が、自分の花嫁衣装を着て婚約者の隣に収まるなんて、考えただけで、はらわたが煮えくりかえるでしょう?」
彼女はそう同意を求めたが、私はその笑顔に薄ら寒さを感じたのだった。
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