日々の恐怖 11月11日 妹(2)
妹が成人した頃には、彼女の様子に違和感を感じることもなくなったという。
「 いい話じゃないですか。」
私は心からそう言った。
しかし、Kさんはどこか浮かない顔でため息をついた。
「 先日、久しぶりに妹に会ったんです。
今度結婚するんだと言うので、祝いに飲みに行ったんですよ。
少し照れくさかったけど、意外に話が盛り上がって、お酒も進みましてね。」
楽しい話のはずなのに、Kさんの顔はますます暗くなり、私は不安を感じた。
「 子供の頃の思い出話で盛り上がっていた時です。
妹が、
『 お兄ちゃん、昔大怪我して、頭を縫ったことがあったよね。』
と言い出しました。
怪我は何度もしましたが、頭を縫うほどの怪我をしたのは、七歳の時の一度きりです。
妹は続けて、
『 玄関でふざけて飛び降りて、段差で頭打っちゃったんだよね。
私近くで見てて、びっくりしたよ。』
と。
怪我の原因はその通りでしたが、妹はその時、生まれてないんですよね。」
他人から聞いた話を、あたかも自分で経験したかのように思い違いをすることは、ままあることだ。
妹も、両親などから聞いた兄の怪我の話が心に残り、そのような勘違いをしていたのではないか。
私がそう言うと、
「 そうだといいんですが・・・・・。」
とKさんはもう一度ため息をついた。
「 僕が怪訝そうな顔をしたからでしょうね、妹は、しまったというような顔を一瞬だけしました。
その時の顔にね、久しぶりに例の違和感を感じたんです。
僕の妹は、こんなだったかなって・・・・。
まぁ、酔っ払いの感覚なんて、あてになりませんよね。」
Kさんはそう言って、力なく笑った。
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