日々の恐怖 2月14日 黒電話(3)
幾月か過ぎ、悲劇から立ち直った主人は変わらずにその古びた家屋で生活していた。
そしてある日、またも無言電話が鳴ったのである。
それは以前に亡き娘が掛けてきた無言電話と全く同じ時間に、同様の手口で掛けられてきた。
これは悪質で陰湿な嫌がらせだ、主人はそう思った。
主人は無言電話が掛かってくると、以前にもそうしたようにコードを外して床に置く。
そうしてやり過ごす。
しかし、そのうちに驚いた事に、娘がした時と同様に、受話器からぼそぼそと話す声が聞こえるようになった。
相手は娘でないのは分かっている。
娘は死んだ。
この事件を知っている者の悪質な嫌がらせだと思っていた。
当然そう思うだろう。
そこで主人は、当時最新の録音機を手に入れた。
そう、それを使いぼそぼそと話す声を録音してやろうとの企みだ。
ある夜、いつものようにいたずら電話が掛かって来た。
主人は用意しておいた録音機の電源を入れ、録音を開始したのを確認して受話器を横に置いた。
耳を澄ますと、ぼそぼそ話しているのが確認できる。
そして、ある程度録音したら、電話機のコードを外した。
続いて主人は、録音機の音を大きくして再生させた。
そこから聞こえてきた声に主人は当惑した。
” 助けてほしい、助けてほしい、助けてほしい・・・・。”
娘の声に、主人は気が狂いそうだった。
そして、主人はその家を売り払った。
その後、その家の持ち主はころころと代わり、そこに住んだ者は皆この電話に悩まされたそうだ。
また、周辺の噂によると、そこの内装を新しい物にかえる際に、その黒電話のあった場所の下の床を剥ぐと女性のものと思われる長い髪の毛がいくつも発見されたとも言われている。
しかし、その髪の毛が誰のものなのかは分かりようもない。
現在、その家屋は、文化財としてひっそりと保存されている。
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