日々の恐怖 6月22日 左手(1)
以前勤めていた会社の取引先の営業にKさんって人がいた。
歳は40代で見た目は平凡、仕事もそつなくこなす、いわゆる普通のサラリーマンだ。
変わったところと言えば、常に腕時計の下にリストバンドをしているくらい。
あと、左手が右手より少しだけ長かった。
それは初対面の時から気になってたけど、身体的なことだから特に話題にもせずスルーしていた。
その理由を初めて聞いたのは、一緒に仕事するようになって何年も経ってからだ。
あるプロジェクトが終わり、俺の会社とKさんの会社で合同の打ち上げが催された。
その席でKさんの隣に座った俺は、仕事の話や雑談に花を咲かせ、楽しい時間を過ごしていた。
Kさんは俺より二回りも上だけど気さくないい人で、営業だけに話もバツグンにうまい。
小一時間ほど差しつ差されつ杯を重ねていたが、ふとしたタイミングでKさんのリストバンドがズレ、その下がちょっと見えた。
上手く表現できないが、なんとも言えない傷跡がある。
ケロイドのように少し盛り上がっているが、火傷とは違う。
とにかく、なんとも言えない傷跡だ。
「 Kさん、それ、大丈夫っすか?」
酒が入ってたせいもあって、俺は反射的に無神経なことを聞いてしまった。
「 えっ、これ・・・・、別に何でもないよ。」
Kさんリストバンドを直しながら、歯切れ悪く言うとそのまま口をつぐんだ。
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