日々の恐怖 11月24日 Reserved seats(2)
私が頷くのを見届けてから、彼は話しはじめた。
「 いや、大した話ではないんですけどね。
親父が定食屋を改装してこの喫茶店をはじめてから、なぜだかあんなことになったんです。
あの予約席のプレート、いくら片付けても、朝になったら勝手にあそこに置かれてるんですよ。
もちろん、誰も触ったりしてませんよ。
プレートを捨てても、いつの間にかあそこに戻ってきてるんです。
それにあの席、妙にひんやりとして寒気がすると思ったら、
別の時は、今しがたまで誰かが座ってたような温もりが残っていることもあって。
正直、気味が悪いんです。
一度椅子ごと撤去したこともあったんですがね。
次の日私が来たら、店の窓ガラスが全部割れていて、それも内側から。
その後も雨漏りやら空調の不調が続いて、結局椅子を戻したんです。
そしたら、店内の不具合もピタリと止まって。
その後はもう、あそこの席は初めからないものとして、無視することに決めました。
放っておけば、特に害はないのでね。」
思いがけない話が聞け、私はますます呆気にとられた。
予約席は亡き戦友のもの、という話に勝るとも劣らない、不可思議な話だ。
「 お父様は、何かご存知だったのでしょうか?」
「 何も知らなかったと思いますよ。
僕と違って真面目なもんだから、あの席をどうにかしようと、真剣に考えてましたね。
ここは俺の店なんだから俺が座ってやる、なんて言って、一日中座ってたこともありましたよ。
席がひんやりしてたもんだから次の日風邪を引いて、それが元の肺炎で亡くなりましたけどね。」
「 それは、それは・・・・。」
私はかける言葉が見つからなかった。
彼の言い方だと、先代の死はまるであの予約席のせいなのだが、店主はあまりにもあっけらかんとしていた。
「 その、戦友云々の話がどこからきたかはわかりませんけど、そんないい話になっているんなら、
大歓迎ですよ。
親父も僕も、そこの席の由来を聞かれた時はいつも適当にはぐらかしてましたから、
お客さんの間で憶測が憶測を呼んだ結果なんでしょうけど。」
店主はそう言って笑った。
私はコーヒーを一口含み、この店主にこの味が付いていれば、どんな噂が出回っても客足に影響はないだろうと、心中頷いた。
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