弁護士の採用、企業の9割「予定なし」・日弁連調査 (2007年2月22日 日本経済新聞)や<弁護士就職難>企業や省庁など採用予定低調 日弁連初調査 (2007年2月22日 毎日新聞)などの記事に関連して toshiさんが「弁護士と企業との期待ギャップ」、ろじゃあさんが「弁護士先生の就職難?・・・toshiさんの問題提起を読んで」というエントリを書かれています。
私も遅ればせながら感想を書いたのですが、だらだらと長くなってしまいましたのでかいつまんで言うと、
企業内弁護士の採用というのも採用一般と同様雇用側と就業側の(業務内容、行為規範、待遇、能力などを要素とする)需給関係で決まるので、増やそうと思って増えるものではないのではないか。
弁護士の増加に伴う就業難というのがあるとしたら、それも需給関係によるもので、日弁連が弁護士有資格者の就業という個人の経済活動まで面倒を見ようといういのであれば、それは弁護士自治の中で解決すべき問題なのではないか。
ということです(うわっ、短くするとすごく刺激的になっちゃいますね(汗))。
お時間のある方は、以下をごらんください
1.「立ち位置」の問題
ろじゃあさんの指摘されている「企業内弁護士」の「立ち位置」についての問題意識は私も同感です。
そもそも「企業内弁護士」は弁護士としての職業倫理や弁護士自治と企業との雇用関係・指揮命令とがどういう関係にあるかがいまひとつよくわかりません。
日弁連のHPを見ると、弁護士自治について
弁護士が、その使命である人権擁護と社会正義を実現するためには、いかなる権力にも屈することなく、自由独立でなければなりません。そのため、日弁連には、完全な自治権が認められています。弁護士の資格審査、登録手続は日弁連自身が行い、日弁連の組織・運営に関する会則を自ら定めることができ、弁護士に対する懲戒は、弁護士会と日弁連によって行われます。弁護士会と日弁連の財政は、そのほとんど全てを会員の会費によって賄っています。
このように、弁護士に対する指導監督は、日弁連と弁護士会のみが行うことから、弁護士になると、各地にあるいずれかの弁護士会の会員となり、かつ当然に日弁連の会員にもなることとされているのです。
とあります。
話を整理すると、「司法修習修了者で弁護士登録をしていないサラリーマン」というカテゴリーもあるとは思うのですが(実際にいるかどうかは知りませんがたとえば「製薬会社に勤務する医師国家試験を通った従業員」のような人)。こういう人々の就職問題は「弁護士の就職」の話でなく「弁護士資格を持った人の就職」という一般の人の就職の話と同じ話だと思います(この部分の問題意識については後述します)。
今回あえて日弁連がアンケートをした、ということは、弁護士登録をしたうえで企業と雇用契約を結ぼうというカテゴリーの人(以下では「企業内弁護士」はこの意味で使います)を増やそうという意識があるように思われます。
このような「企業内弁護士」は上の弁護士自治と企業との雇用契約との関係でどのような行動規範に沿って仕事をするのでしょうか。なんとなくそこにコンフリクトがあるような感じもします。
2.弁護士側と企業側のニーズはマッチするか
この「立ち位置」の問題が解決されたとして、企業側で「企業内弁護士」に対して期待するものは何でしょうか。
toshiさんの
(企業内弁護士としての素養として)企業が知りたいのは、単に弁護士の資格というよりも普通に「人柄半分、能力半分」だと思います。・・・(中略)・・・あえていえば、「なんかおかしいんじゃないの?」といった問題をみつけだす「勘」とか、人を説得できるだけの事実を確定したり分析したりできる技術だとか、紛争解決策を自ら提案できるようなプレゼン能力
というご指摘(これは正鵠を得ていると思います)に加え、新たな仕組みを作り上げる発想・構想力などをお持ちの方だとなおうれしいですね(と自分のことを棚にあげて言いますw)。
ただ問題はtoshiさんも指摘されているように、そのような脂の乗った若手・中堅の弁護士が企業内弁護士になってくれるか、というそもそもの問題があると思います。
弁護士としてのキャリアを積む一環として企業内弁護士になるのであれば、やはり弁護士では経験できないような面白い仕事(たとえば特定の分野の知的財産権とか、新興国への投資とか、M&Aとか、ストラクチャード・ファイナンスとかですかね)が継続的にないと、優秀な人は来てくれないよのではないでしょうか。
一方、そういう弁護士にとって面白い仕事が少ない(大半の)企業にとっては、「それでも仕方がない」という(失礼ながら)あまり優秀でない弁護士と雇用契約を結んでしまうことの懸念があります。
一旦雇用してしまうと容易に解雇するわけにも行きませんし、他の部署で活躍してもらうことも現実的ではありません。また、当初は機能していたとしても、勤続年数が長くなりその人が「権威」として専横をふるうようなことになると、弁護士でもあるだけに社内のチェックがきかなくなるおそれもあります。
そう考えると、「弁護士にとっても魅力的な案件を多数手がける企業が、弁護士と一定期間の有期雇用契約を結ぶ」というような形でのマッチングあたりが現実的なのではないかと思います。
でもこれだったらどこかの事務所から若手・中堅クラスを出向してもらうのと同じですし、そのほうが簡単ですよね。
弁護士を「採用」する企業が少ないのは、このような事情があるのではないかと思います。
3.企業内弁護士の採用は日弁連が心配すべきことなのか
これは業界の実情を知らない者の誤解かもしれませんが、資格者の団体が有資格者の就職を心配する、というのは弁護士業界特有なのではないでしょうか。
公認会計士協会とか日本医師会とかはそこまでの配慮をしていると聞いたことはありません。
保有する資格を使うか否かも含め、どういう職業を選ぶかは個人の問題のはずです。
一方、上にあるように弁護士には「その使命である人権擁護と社会正義を実現するために・・・日弁連には、完全な自治権が認められ」「弁護士に対する指導監督は、日弁連と弁護士会のみが行う」という特殊性があるので、「弁護士(=自ら開業または事務所に就職した後の資格者)」の面倒だけでなく「弁護士資格を持った未就業者」全員の就職を面倒を見る必要があるのかもしれません。
職にあぶれて悪事に手を出したり反社会的勢力(の裁判を受ける権利以外の犯罪行為に)加担する人が増えるのは望ましくないでしょうから。
ただそれは、弁護士登録の際の審査(というのはあるんでしょうか)や懲戒というそれこそ弁護士自治の中でチェックできるはずです。
また、有資格者は全員弁護士として就業させるべきだ、という価値判断があるならば、就職できない修了者が出ないように弁護士事務所に採用を働きかけるとか、就職できなかった弁護士は弁護士会が一定の収入を保証したうえで弁護士事務所に派遣して経験を積ませる、などの互助努力が必要なのではないでしょうか。
また、問題が絶対数の増加でなく都市部への弁護士事務所や就業希望の集中であるとしたら、日弁連が都市圏の弁護士に一定期間地方での活動を義務付けたりすればいいように思います。
「司法試験合格者が増えるが一般企業が採用しないので就職にあぶれる修了者が増える」といわれると、なんか民間企業が困っている人を助けない、と言われているような気もしてしまいます。でも、困っている人を助けるのは本来弁護士さんの仕事ですよね(あ、経済的に助けるのは仕事じゃないか・・・)。
結局、増加する司法試験合格者に対して弁護士業がどう対応していくかについては、職業独占が法律で認められている以上、弁護士自治のなかで解決するしかないように思います(弁護士事務所の採用数の縮小が、国民の裁判を受ける権利を阻害する程度に既得権益擁護に走れば、職業独占自体が国民に問われるわけで、そこには一定の抑止は働くと思われます)。
もし、現在の計画の合格者数が市場に対して多すぎるのであれば、逆に司法修習を終わっても弁護士事務所に就職できない可能性があることを明言し、
司法試験受験者の減少→合格者数を維持した場合のレベルの低下→修習修了者の未就職の増加→制度の見直し
というような市場メカニズムのなかで調整していく方がいいのではないでしょうか。
あ、上の新聞記事はそういうアドバルーンだったのかな・・・