書評やblogなどでも取り上げられている福岡伸一『生物と無生物のあいだ』を読みました。
分子生物学者である著者による、分子生物学の黎明期から最前線までの歴史とそれをめぐる研究者たちの人間くさい競争、そして研究者という職業をとりまくさまざまな不条理までを、研究者としての軌跡と重ね合わせながら活写した、とても面白い本です。
とくに「あとがき」は著者の研究者としての原点が最後に明かされるとても感動的な掌編になっていますので、必ず最後に読むようにしてください。
と、非常に面白い本に対して素直に感動する一方、例によって不謹慎な私は
分子レベルでも人間集団レベルでもやってることは似たようなものだなぁ。
という感想を持ちました。
以下に引っかかったポイントをいくつか。
<その1:ドミナント・ネガティブ現象>
タンパク質分子の部分的な欠落や局所的な改変のほうが、分子全体の欠落よりも、より優位に害作用(ドミナントネガティブ)を与える。
チームのメンバーが足りなくても、人数あわせに中途半端な人を入れるよりは少ない人数で補い合った方がうまくいくことはよくありますね。
あと、自信がないけど権力は誇示したいので仕事の微細なところを思いつきでいじくるエライさんの迷惑さに閉口したことのある方も多いと思います。
<その2:動的平衡>
エントロピー増大の法則は容赦なく生体を構成する成分にも降りかかる。高分子は酸化され分断される。集合体は離散し、反応は乱れる。タンパク質は損傷をうけ変性する。しかし、もし、やがては崩壊する構成成分をあえて先回りして分解し、このような乱雑さが蓄積する速度よりも早く、常に再構築を行うことができれば、結果的にその仕組みは、増大するエントロピーを系の外部に捨てていることになる。
つまり、エントロピー増大の法則に抗う唯一の方法は、システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組み自体を流れの中に置くことなのである。つまり流れこそが、生物の内部に必然的に発生するエントロピーを排出する機能を担っていることになるのだ。
特定のマーケットに過剰適応した企業は、マーケットが変わると従来の強みが弱みになってしまう、というのは経営の本によく出てくる話です。
とはいえ「システムの耐久性と構造を強化することではなく、むしろその仕組み自体を流れの中に置く」というのは言うは易く行うは難しの典型のようなものです。
「流れの中に置く」といっても思いつきで朝令暮改を繰り返すのでは単なる自己満足で、それ自体がエントロピーの増大になってしまいますしね(くわばらくわばら)。
また「常に先回りして再構築」を実践することは、経営者も従業員も心休まる暇がないことを意味します。
これをうまく機能させるには、商品や技術でなく、トヨタ自動車のように「カイゼン」というスタイル(思考形式?)を企業文化として持っていることが必要なのかもしれません。
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