一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

弁護士法72条

2008-03-13 | 法律・裁判・弁護士

最近バタバタしていてひと様のブログを読む機会がなかったのですが、昨晩久しぶりに巡回しました。

スルガコーポレーションの事件については ろじゃぁさんtoshiさんも取り上げられていました。

個人的にはこの事件の「筋」は暴力団排除とか従来からとかく噂のあったところにきっかけを見つけたので一気に、という案件だと思うのですが、罪に問われている弁護士法72条のいわゆる「非弁行為」については、なかなか微妙な問題があると思います。

(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条  弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

と①「法律事件」か、②「鑑定、代理、仲裁・・・その他の法律事務」か、③「報酬を得る目的」かというあたりが問題なのですが、規定自体がかなり漠としたものになっています。
この法律の趣旨は、いわゆる「事件屋」とか「示談屋」のような「強きを助け弱きをくじく」という衡平に欠ける解決をするような輩を紛争処理に介入させない、というところにあるのではないかと思います。

しかし一方で、これを厳格に解釈すると、(法定代理人でない)親戚のトラブルの示談交渉に一肌脱ごうというオジサンも「あとでお礼の一杯」を期待しただけで弁護士法違反になりかねないわけですし、街場の賃貸アパートを管理している不動産屋が入居者との現状復旧費用の負担について金額の交渉をするのにも宅地建物取引業法で認められた「賃貸の代理」を逸脱して法律紛争に関与した、などと言われかねません。

またこの問題は、形式的には弁護士法72条(=弁護士の職業独占)に抵触するかどうかについて弁護士の意見を確認すること自体、利害関係者の意見として信用できないわけなので、論理的には解決不能なわけです。
(このへん、立法担当者はどう考えていたかは聞いてみたいですね)


結局この辺は、最後は委託する側が自分は社会正義に反してはいない、という確信を持ち、「文句言うなら言ってみろ」万が一訴えられても受けて立つぞ、という腹のくくりをしているかどうかの問題だと思います。


そしてそこから先は、法解釈論でなく経済原理に頼ることになるわけで、

① 必要以上に弁護士の既得権益を守るインセンティブのない(=比較的金回りが良くて弁護士会の役員の地位なども狙っていない)弁護士を味方につける。
② 就職にあぶれた弁護士を交渉専門に安価に囲い込む(初任給もかなり安くなっていたりするようですし)
③ 毎年3000人は多いなどと言わずに5000人くらい司法試験に合格させろと要求する。

という対応をとることになります。

弁護士になるような人も、何も好き好んで建設会社の地上げとか街場のアパートの畳の日焼けはどっちの負担か、などという交渉ごとだけをやるために難関の司法試験を突破したわけじゃないでしょう。
しかし一方で検察や弁護士会などが弁護士法72条の解釈にあたり厳格な姿勢をとるのであれば、就職にあぶれたり、あまりに低い給料しかもらえない弁護士を雇うコストとそういう交渉委託業者を雇うコストの比較の問題になり、そういう安価なマーケットを作り出せ、という政治的プレッシャーがかかることにもなりかねないと思います。

toshiさんは

このたびの事件で「ドキ!」っとされていらっしゃる企業様もいらっしゃるのではないかと思います。

とおっしゃっていますが、企業としては費用対効果さえあえばあえて法を犯すリスクを負う必要はさらさらなく、 おいしそうな仕事は独占したいけどおいしくない仕事は「法律事務でない」という解釈を事後的にされるのはたまらん、逆に職業独占を主張される弁護士会が、小口の紛争とか紛争予備軍というグレーゾーンの案件まで社会的コストとしてリーズナブルな範囲内できちんと受任することを約束してくれるのであれば喜んでお願いします、となるのではないかと思います。


今回のスルガコーポレーションの行為を擁護する気はさらさらないのですが、弁護士法のあいまいさは企業だけのリスクではなく、弁護士業界側にとっても「法律事件未満の案件もカバーするような人員体制を求められる=弁護士の供給過剰状態の新たなプレッシャーになる」という意味でリスクなのではないかと思います。

コメント (2)
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