一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

杞憂商品取引法24条の4の4

2008-03-14 | あきなひ

ひきつづきtoshiさんのエントリ 「内部統制報告制度に関する11の誤解」金融庁公表(速報版)から、件の金融庁のサイト(参照)を見てみました。

平成20年4月1日以後開始する事業年度から導入されます内部統制報告制度は、企業等に過度のコスト負担をかけることなく、効率性と有効性のバランスをとりながら整備することを目指しています。
しかしながら、実務の現場では、一部に過度に保守的な対応が行われているとも言われております。
金融庁では、そうした指摘も踏まえ「内部統制報告制度に関する11の誤解」を公表し、改めて制度の意図を説明することといたしました。
また、併せて、内部統制報告制度の円滑な実施に向けた行政の対応を公表することとしました。  

金融庁は従来から、それぞれの会社の個別性に合わせた内部統制を構築すればいいとは言っていたのでその内容の再確認に近いものだと思います。
しかし一番の問題は「誤解」ではなくその前段階にある「行政の厳罰対応への恐怖心/不信感」なのではないでしょうか。

二年ちょっと前に「自分の言葉で書きなさい」というエントリで、会社法の内部統制について日本企業は新しい規制ができた場合、大体無難なところへの横並びに落ち着く傾向があると書いたのですが、その後の事後処罰・厳罰化の流れの中で、より過剰に保守的になってしまい、ついには金融庁にまで心配され始めた、という傍から見ると悪い冗談のような展開になりつつあるわけです(なんだかやたら校則の厳しい学校で、あまりに教師がうるさいので皆丸坊主にしたら、今度は「個性がない」と怒られたような状態ですね。)。


私は脇から見ている立場なのでちょいと無責任に言ってしまうと、監査法人などのコンサルを入れても結局は米国SOX法のテンプレートをあてはめるだけだし、しかも指摘を全部実現したからといって(監査しやすくはなるかもしれないけど)内部統制として決して万全だなんて保障はしてくれないし機能的になるわけでもでもない、ということがわかってきて、しかしその一方で、金融庁や証券取引所はいざとなったら監督権限を振り回しかねないということも承知しているので、万が一のことを考えるとやはり「教科書通りにしといたほうが安全」ということになり結果「全員丸坊主」状態になってしまっているように見えます。


つまり「過度に保守的な対応」は誤解に基づくものではなく、金融庁や東証の対応のぶれに対する安全率をみた結果なのではないかということです。 

この点については、これもtoshiさんのエントリ経由で知った金融庁大森企画課長の「市場行政のいま」の冒頭でもふれられています(これは金融庁の公式見解というよりはかなり踏み込んだコメントです。)。  

私の常識では、新しい制度が施行されると、事務ミスぐらいに一々目くじら立てないのが当然なんですが、あいつら一々目くじら立てるんじゃないかという不信感ですね。そして、残念ながら、私たちの中にも、不信感を持たれてもしようがないと思うようなセンスで仕事をする仲間もいたりするわけでして、ここに金融庁も、ルールに基づく事後チェック一本やりから、本音と対話の行政に向けて、いささか舵を切っていくベター・レギュレーションの契機があるし、ルールとプリンシプルの議論があります。

そして「内部統制報告制度に関する11の誤解」の5番目でもそれを意識したような記載があります。

 <誤解>
内部統制報告書の評価結果に問題がある場合、上場廃止になったり、罰則の対象となる。
<実際>内部統制に問題(重要な欠陥)があっても、それだけでは、上場廃止や金融商品取引法違反(罰則)の対象にはならない。
(具体例)
○ 「重要な欠陥」は上場廃止事由とはならない(東証・上場制度総合整備プログラム2007)。
○ 「重要な欠陥」があっても、それだけでは、金融商品取引法違反とはならず、罰則の対象にもならない(罰則の対象となるのは、内部統制報告書の重要な事項について虚偽の記載をした場合(金融商品取引法197条の2)。)。

大概の企業も誤解をしているわけではなく、「そんなことで上場廃止になってたまるかよ」と思いながらも「そうはいってもマスコミや国会が騒いだらきっと東証や金融庁は日和るよな」という可能性を考えているだけだと思います。

なので、企業側にしてみれば、金融庁にここで急に優しくなられてもいつ手のひら返しをされるか、という思いが依然として強いと思いますし、罰則でなくとも金融商品取引法24条の4の5で「内部統制報告書及びその添付書類について準用」される

第九条  (形式不備等による訂正届出書の提出命令)
内閣総理大臣は、第五条第一項及び第六項若しくは第七条の規定による届出書類に形式上の不備があり、又はその書類に記載すべき重要な事項の記載が不十分であると認めるときは、届出者に対し、訂正届出書の提出を命ずることができる。

第十条(虚偽記載等による訂正届出書の提出命令及び効力の停止命令)  
内閣総理大臣は、有価証券届出書のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、又は記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な重要な事実の記載が欠けていることを発見したときは、いつでも、届出者に対し、訂正届出書の提出を命じ、必要があると認めるときは、第四条第一項又は第二項の規定による届出の効力の停止を命ずることができる。

というあたりの運用次第では、上場廃止や罰則までは行かないまでもかなりのダメージを受けるおそれがあるということは意識せざるを得ません。
(解散して3年後になって証拠隠滅容疑について連邦最高裁で無罪が確定したアーサーアンダーセンを見ると、やはり「後の祭り」という言葉がちらついてしまいますね。)

その辺の心配を見越してか、同時に公表された 「内部統制報告制度の円滑な実施に向けた対応」にも

 ○指導中心の対応内部統制報告制度の導入にあたっては、過度に保守的な対応にならないよう、制度の円滑な実施を図るという観点から指導中心の行政対応

なども書かれています。
しかしこれを読んでも、このように突っ込みたくなってしまいます。

「指導」といっても旧時津風部屋のような「指導」もあるからなぁ・・・

 

コメント (2)
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