大学受験の数学(文系だったので今やなき「数Ⅱb」というやつでした)の確率にはあまりいい思い出がありません。
なぜか数学の模試は、最初に確率の問題がよく出され、しかも大概が難しいものでした。
当時私は、「試験問題は最初から順番に解く」ということを貫いていて(「解けそうなものを選ぶ」という作業はそれ自体に時間がかかっってしまったり、解答欄を間違えたりしそうだし、なにしろ潔くない、などとその当時は思っていました)、そのため確率の問題を解くのに全体が3問あるとしたら半分くらいの時間を費やしてしまったあげくに間違っていることが多く、鬼門というイメージがありました。
本書はそういう私にもぴったりで、数式はほとんど出てきません。
確率の考え方から最新の確率理論が日常やビジネスにおける意思決定を説明するのにどのように役立っているかを平易に解説してくれます。
たとえばある事象の起きる確率をそれが試行できないときに推定するベイズ推定、「結果を観測できない」選択がある(=選ばなかったほうの結果がどうなったかがわからない)場合、確率的選択にはバイアスがかかること(たとえば人事採用においては保守的になってしまう)、確率現象を生み出す仕組みがわからない場合、真似をしたり経験を活かすことは合理的であること、などをわかりやすく説明してくれます。
終章はそれまでの平易な解説から熱い語りにトーンが変わります。本書は客観的な記述に終始したものの、著者の問題意識は
不確実下の意思決定に際して問題になるのは、「合理的な選択」と「正しい選択」の違いである。とりわけ、「不確実性下における選択の正しさとはいったい何か」という点が大問題なのである。
不確実性下の選択には事前と事後における結論(正しさ)のズレという難しい問題が存在している。
たとえばある手術をしなければ5年生存確率は50%、手術をすれば90%に上がるが、術中死亡する確率が1%ある、と言う場合、期待値から考えた合理的な選択は手術をすることだが手術により死んでしまった人を「選択は正しかったが運が悪かった」で済ませていいのだろうか、ということです。
頻度に注目し、個を同一視する発想は、「手術をする側」の発想なのではないか、というのが著者の問題意識です。
この論点については別の著書で語っているそうなので、早速そちらも購入することにしました。
|