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「イオンチャネル」を組み込んだ「人工細胞膜チップ」開発

2018-12-11 | 科学・技術
 神奈川県立産業技術総合研究所の神谷厚輝研究員らは、東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授、(株)SEEDSUPPLY(研究開始当時の所属は武田薬品工業株式会社)の中尾賢治上席研究員と共同で、薬剤試験が可能な、膜内外にイオンを輸送するイオンチャネルが組み込まれた「人工細胞膜チップ」を研究開発した(11月30日発表)。
 共同研究グループは、簡便に薬剤阻害試験が可能な、細胞小器官に存在するイオンチャネルをもつ人工細胞膜チップを開発した。先ず、目的のイオンチャネルをもつ細胞を超音波で破砕し遠心分離し、目的のイオンチャネルを含んだ粗精製膜画分を作製する。そして、その画分を人工細胞膜チップに加え、膜融合によりイオンチャネルを人工細胞膜に組み込む。接続された「多チャネルパッチクランプ」を用いて、イオンチャネルの電気的な計測が可能となる。この技術により、細胞内のさまざまな部位に存在するイオンチャネルの電気的な計測と薬物阻害試験に成功した。
 樹脂製のチップに、数字の「8」の形に似た小さなくぼみを作り、幅約1cmの大きさで底面に電極を付け、1枚に16個並べた。このくぼみの中央部分に細胞から採取したイオンチャネルを組み込んだ人工の細胞膜を取り付け、イオンチャネルがどんな物質をどの程度流すのかを調べられる。細胞の様々な器官から採取した5種類のイオンチャネルで実際に測定できることを確かめた。イオンチャネルの働きを妨げる薬剤を入れて、物質を通さなくなることも確認できた。
 新薬の開発にはイオンチャネルの機能を解明しなければいけないが、操作に熟練した技術が必要で、1日に数個と多くを調べられなかった。新しいチップを使うと、1.5~2時間で16種類のイオンチャネルを調べられる。薬の安全性試験を含め創薬の現場で広く活用できるとみている。
 ◆イオンチャネル
 イオンチャネルは細胞膜や細胞小器官の膜組織に存在し、膜内外にイオンを輸送する膜タンパク質の一種である。創薬ターゲットのタンパク質全体の約20%がイオンチャネルである。
 イオンチャネルの活性を測定する方法として、パッチクランプ法がある。この方法は、イオンチャネルが存在している細胞膜に細いガラス管の先端を押し当て、ガラス管内のイオンチャネルを通過するイオンの流れを電気的に測定する方法。パッチクランプ法は、熟練者でも1 日に数個のデータしか取得できない程の難易度の高い技術である。さらに、細胞膜に比べて細胞小器官は直径1マイクロメートル以下と大変小さく、ガラス管を押し当てることが非常に困難なため、細胞小器官に存在するイオンチャネルの機能解析は遅れている。
 ◆膜タンパク質
 膜タンパク質は、主に細胞膜上に存在し、細胞の内外の物質輸送・排出に重要な役割を果たし、薬剤応答・エネルギー変換・免疫反応など生理的な機能に大きく影響しているタンパク質である。創薬においては、薬剤がどのように取り込まれ、排出されるかについては、薬効や副作用などを評価する上で非常に重要。