北海道美術ネット別館

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3■竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」 (2020年10月3日~11月29日、小樽)

2020年12月02日 07時55分20秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 「塔を下から組む」について特筆しておきたいのは、図録が充実していることです。
 2年前の展示を中心にした図録が会場で販売されていましたが、百年記念塔をめぐる詳細な年表や、メンバーが書いたテキスト、2度にわたるアーティストトークの文字起こしなどが載っています。
 北海道では、美術館がともすれば展覧会の図録を発行しないなど、やや記録軽視の傾向があるように感じます。「塔を下から組む」の取り組みは大変良いと思います。

 そのアーティストトークの記録を読むと、現代アートと金属工芸の両方のフィールドで活動している藤沢レオさんが入っていることの意味は大きいなと思いました。
 百年記念塔で使っている鋼材についての知識は、さすがとしか言いようがありません。

 冒頭画像の作品は「塔をめぐる切実な希求」。
 素材が「コールテン鋼、鉄釉、土、鉄」とあります。百年記念塔は、表面がさびて耐久力を発揮するコールテン鋼が用いられているとききます。
 よくある形状の器が並んでいますが、鉄は権力や国家の象徴であるとともに、人々の日常にありふれた素材で人々の暮らしと命を支えてきたんだという作者の思いが垣間見えます。

 次の画像は「北海道百年記念塔改築工事及び石積みマス整備工事」やドローイング。
 左下の紙には
「今度は
 一層一層 積み重ねる。」
と書かれています。

 華麗に天を目指すのではなく、地道に積み重ねる…。
 なんだか、共感できます。


 似たような「視線の低さ」は、森本めぐみさんの作品(『拾われた遺失物だけが遺物です』と総称されています)にも感じました。

 森本さんは、塔が無くなった跡地のことを想定しながら、視線を天へと向けるのではなく、塔の足下にある人工池を泳いでいたオタマジャクシなどを見て、それを江別(記念塔のすぐ近く)産の粘土を用いて自宅の庭で野焼きしたものなどを展示しています。

 ここで作家は、身の回りや日常へと単に退却するのではなく、想像力を働かせて、大文字の歴史ではない日々の営みを見つめているのだろうという気がします。


 山田大揮「足元を見るための練習(豚)」。

 「足元を見るための練習(羊)」や「足元を見るための練習(馬)」「足元を見るための練習(牛)」もありました。
 いずれも文学館の床の上に、無造作に置かれていて、しかも時々モーターとセンサーの仕掛けでざわざわと動くのです。

 どうみても、巨大な虫がうごめいているようなのです。
 作者が昔から記念塔に似ていると思っていて、塔の近くの川にもすんでいるクロカワムシという昆虫を模して作ったとのこと。

 豚、羊、馬、牛というのは、形状ではなく、それぞれの革を素材にしているゆえの命名です。

 記念塔の建設構想には「われわれが今日の生活を享受できるのは、有名無名の先人達のえい智と血と汗のたまものである」とあります。ここで私が考えるのは、この作品で扱っている動物や虫たちが「有名無名の先人達」の外側にいるのではないか、ということです。

 そのような「大文字の歴史」のなかで表現されてこなかった存在に焦点を当てること。塔を記念したもの / ことに対して、蔑ろにされてきたもの / ことについて考えることは、開拓者の子孫である自分にとって意義のあることだと感じます。


 サイードが主著『オリエンタリズム』のエピグラムとして引いたマルクスの『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日クーデタ』の有名な一節を思い出します。


 大橋鉄郎さん「ピースシリーズ(北海道百年記念塔)」と「一人語りエッセイミュージック」。

 こちらは「大文字の歴史」どころか、そもそも、なんでも「大きな問題(重大なニュース)」にしつらえてしまう「構造」に対して、ささやかな異論を提示しているようにも思えます。

 そうだよね。
 岡村靖幸も、大事なことはそんなんじゃないって歌ってたような気がするし…。
 ビートルズはこうも歌ってましたよ。

Don't carry the world upon your shoulder.


 白濱雅也さんの作品は2018年と基本的に同じだと思われるので、その際のテキストを参照してください。
 成長至上主義やマッチョイズムを笑い飛ばしています。



 以上、かなりの駆け足になってしまいましたが、非常に興味深い展覧会を紹介しました。

 なんだか、井口健さんの清新な取り組みを、となりの部屋でひっくり返そうとしているような気がしなくもないのですが、そこにある一種の断絶は、50年という歳月の長さであると思います。
 自分よりも年下の人が「百年記念塔的なもの」に対して懐疑的な姿勢を見せたとしても、それに立腹するほど井口さんは狭量ではないだろうし、そもそも、(1)で書いたように「賛成」とか「反対」という言葉で単純に割り切れるものではないのがアートというものなのです。



2020年10月3日(土)~11月29日(日)午前9時半~午後5時(入場30分前まで)、月曜休み
市立小樽文学館 (小樽市色内1 http://otarubungakusha.com/exhibition/2020033734 )
一般300円、高校生・市内高齢者150円、中学生以下無料

【告知】竣工50年 北海道百年記念塔展 井口健と「塔を下から組む」

□【井口健×佐藤拓実 往復書簡】 https://100kinentou-oufukushokan.com/

□「塔を下から組む」公式サイト https://build-the-tower-from-the-bottom.tumblr.com/

塔を下から組む―北海道百年記念塔に関するドローイング展(2018)
続き
続々
【告知】塔を下から組むー北海道百年記念塔に関するドローイング展 (2018) 



藤沢レオさん http://leofujisawa.com/

【告知】樽前arty2019「芸術祭のしまい方 -100年先の未来へ-」 (2019)
藤沢レオ個展「ある一日、」 (2018年2月)
平面と立体の交差 ・北広島のコンテンポラリーアート (2017)
北見赤十字病院のパブリックアート 藤沢レオさん
茶廊法邑のリニューアル後を見に行きました(2017)
REIJINSHA GALLERY’S EYE Vol.2 (2017)
紐解く時間 読む時を演出する作品展 (2016)
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法邑芸術文化振興会企画展〔滲-shin-〕=品品法邑
ART BOX 札幌芸術の森・野外ステージ
藤沢レオ-パサージュ
鉄 強さとやさしさの間で(07年12月、画像なし)
藤沢レオ展(07年)



森本めぐみさん @mmmegumi

森本めぐみ展「百年の予定」 (2016~17)
森本めぐみ個展 とがったいわ (2013)
【告知】森本めぐみ個展 とがったいわ
生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12) (2013年3~4月)
森本めぐみ展(2012年)
北海道教育大学卒業制作展(2011年)
ゴンザレス=トレスとTHE BEGINNING展 (あるいは、森本めぐみは旅をする)
北海道教育大学卒業制作展(2011年3月)
北海道教育大学岩見沢校美術コース空間造形研究室「三年生の三人展」 (2010年2月)
森本めぐみ展 くものお (2010年1月)
Point Of Color 笠見康大 蒲原みどり 西田卓司 森本めぐみ(2009年7月)
森本めぐみ個展「ワークス」 (2009年4月、画像なし)
ACRYL AWARD2008入選作品展 (2009年3月)
Megumi Morimoto Exhibition (2009年2月)
森本めぐみさんがアクリルアワード大賞
森本めぐみ作品展「むこうのほう」(2008年9月)
日常にARTを H.I.P-A 紀伊國屋プロジェクト (2008年7月)
post ship exhibition 01(2007年)


山田大揮さん @_yamadahiroki
山田大揮個展「あなたは石を見ている 石はあなたを見ていない」(2020)
500m美術館vol.28 500メーターズプロジェクト006 「冬のセンバツ」〜美術学生展〜 (2019)
七月展 北海道教育大学岩見沢校 美術文化専攻の学生による自主制作展 (2018、画像なし)


大橋鉄郎さん http://tetsuro-ohashi.com/


□白濱さん公式サイトhttps://ameblo.jp/shirahamamasaya/
□Art Labo 北舟/NorthernArk https://mmfalabo.exblog.jp/
□ツイッター@shirahamamasaya

真鍋庭園にあった白濱雅也「FREE ME」
こころのにわ (2019)
Retro Machinism_暖かな機械 (2019)
Post 3.11 in Sapporo 〜沈み行く記憶の淵で (2019)
(4)ゲストハウス×ギャラリープロジェクト Sapporo ARTrip「アートは旅の入り口」―最終日に行った会場のこと
裏物語 ヘンゼルとグレーテル ー帯広コンテンポラリーアート2016 ヒト科ヒト属ヒト
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(この項、了) 


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