イタリア沿岸、ジグリオ島沖で、11万4千トンの巨大客船を横倒しから垂直に復帰させる作業が成功裡に終了した。このような空前のスケールの作業はこれまでの海難史上に例を観ないものだが、周到な準備と、この船の強靭な構造が今回の成功に結び付いたのだろう。二度と起きて欲しくない事故だが、今回の作業によって多くの情報が得られたのではないかと思う。その意味で、スクラップになる前にこの呪われたような巨大客船は海運技術史にささやかながら貢献したのではないか。依然行方不明になっているシチリアからの中年女性客1名とインド人ウエイター1名が今回の作業の結果何か手懸りでも発見されるとよいと思う。
立て直されて、これまで水没していた船腹が白日の下に晒され、いまさらのように事故の深刻さと、あれほどの巨体が横倒しになればどのくらい凄まじい力が加わるのか、そして、20か月海中に没していたことの影響がどれほどのものか、この船体が生々しく語りかけてくる。話題性という事では、タイタニック号の沈没にも匹敵するのではないか。二つの船ともその酷薄な運命をたどったということで、たとえそれが片方はその時代の技術の限界により、そして他方は船長の判断ミスと言う人災であったという違いがあるにしても。
今後はスクラップのための曳航作業に移行する。船体は立て直されたというものの、曳航に耐えうるのかと言う点で船体強度に不安がないわけではなく、また腐敗した大量の食料などの有害・汚染物質が曳航の過程で漏出する可能性も否定できない。その意味では今回最初の一歩を踏み出したというに過ぎず、この海難事故が一件落着となるまでにはまだまだ時間がかかる。