ロンドン、ニューヨークに駐在していた時は、日本からの取引先の接待も兼ねてしばしばミュージカルを観に行った。有名なものはほとんど見たと思う。その中でも最も記憶に残っているのは、興業的には必ずしも大成功とはいえないと思われる「River Dance」。ストーリー自体は陳腐なのだが、アイリッシュダンスのステップが素晴らしい。そして、おなじくダンスがふんだんに盛られているのが「Chicago」。ただし、このミュージカルはリチャード・ギア、ルネ・ゼルウイガー、キャサリーン・ゼタ・ジョーンズが出演した映画のほうが楽しめた。敏腕(悪徳)弁護士が無罪を勝ち取るのだが、証拠の改ざんや隠ぺいなど、100年近くたった今でも横行している手口が縦横無尽に使われているのが面白い。また、当時のマスコミを象徴するものとして、新聞社は陪審員評決結果が有罪、無罪の、二通りの号外をあらかじめ印刷し、無罪評決を受けて(裁判所の窓から白いハンカチを振って)Innocentの見出しの号外の束を配布(Guiltyの版は廃棄)される場面がある。暗殺事件や急病死、事故死に備えて、世界の主要な指導者の死亡記事案を常に用意しておくことは新聞社の最低限の準備だし、ある程度の社会的な地位にあれば、いつでも追悼のコメントを用意しておくのが一般的だろう。さりげない演出だが、観客には新鮮かつユーモラスに映るだろう。そして更に痛烈なのが、大衆は常に新しい事件を待ちわびていて、主人公ロキシーの無罪評決などあっという間に忘れ去られてしまう、というところはまさに、今の時代を象徴するようだ。どんな重大事件も次に起きる事件によって主人公の座から滑り落ちることになる。
ピンボケだが、2003年に買った映画のサウンドトラックのCDの表紙を。