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「いきなり!ステーキ」創業4年目でも快進撃が続く理由

2017年09月11日 09時41分57秒 | 経済
 ステーキレストラン「いきなり!ステーキ」の業績が伸びている。快進撃の秘密はなにか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が分析する。
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 立ち食いステーキ業態の「いきなり!ステーキ」の快進撃が続いている。2013年12月の創業から4年弱。チェーンの飲食業態としては踊り場にさしかかってもおかしくない時期だが、7月度実績でも売上高27.1%増と、ここにきてますます弾みがついている。短期間に急成長を遂げ、しかも3年以上に渡り成長が続く業態は珍しい。運営会社のペッパーフードサービスは、8月8日に東証2部から1部への移行を発表した。
 飲食ビジネスにおいて「必ず成功する」業態はない。味、価格、人材、資本、経営方式など考えるべき要素は多岐に渡るが、とりわけ「味と原価」はほぼ比例している。少しくらいの気の利いたアイデアではこの関係をひっくり返すことはできない。その一方、成功の確率を高める道筋は存在する。世の趨勢を見極め、顧客が望むものをひとつでも多く提供する。その積み重ねで一過性のブームをトレンドへと引き上げることはできる。
●潜在ニーズを取り込む施策
「食文化の創造」を謳う「いきなり!ステーキ」は、話題になるような仕掛けを次々に繰り出している。「1g=5円」の量り売りで話題を呼び、日本人の嗜好に合うよう、豪州産でも穀物肥育の鳴尾牧場の牛肉を選定。メニューによっては食材原価が7割を超えると明言。銀座に1号店を出店して以来、「オトク感の演出」は現在に至るまで通底した仕掛けとなっている。
 決定的な差別化のポイントはスピードだ。これまで外食における「肉」は注文から調理、提供までの時間が10分、15分とかかるのが当たり前だった。しかし、同店ではランチ時の客の滞在時間は注文から提供、食事時間に会計まで含めて平均約20分。5分10分並んだとしても、昼休みの1時間でお釣りが来る。多少の行列があっても、提供スピードに対する信頼感を得ることでリピーターの獲得に成功した。
 世の動きにも敏感だ。2015年夏には「シニア半額!」と銘打った半額メニューを導入。高齢化社会のなか、「長寿には肉食!」というアクティブシニア層の取り込みをはかった。同年11月にはもはやトレンド化している糖質制限対応をスタート。ランチメニューのライス抜きは100円引き。直営店舗ではつけ合わせのコーンをブロッコリーやインゲンなど糖質の低い野菜への変更もできるようになった。
 さまざまな角度から客の潜在ニーズをすくい取り、一定のスピード感とともに実現していく。「この業態に見込みがある」と見るや、その業態に集中して注力するのも成功の条件のひとつである。
●肉マイレージカードという囲い込み
 客の囲い込みについても、システムを柔軟にアップデートし続けている。創業から半年後の2014年に、ポイントカードシステム「肉マイレージカード」を導入した。金額ではなく「食べたステーキの量(グラム)」を「肉マイレージ」としてポイント換算し、積算量で「スタンダード」「ゴールド」「プラチナ」といったランクが上がる仕組みだ。もちろんランクが上がれば、よりいい優待が受けられるようになる。
 翌2015年にはカードと連動したスマートフォン向けのアプリを導入し、利用者同士で肉マイレージ(グラム数)を競うゲーム性を取り入れた。毎月10位以内には数十kgを平らげる猛者がずらりと並ぶ。現在では「肉マイレージカードレス化」として、カードなしでもアプリ内で「肉マイレージ」の積み立て、肉マネーのチャージや利用ができるよう機能を改変。財布内でのカードの場所取り合戦からも自由になった。
●ステーキの仕上げは客自身が行う
 もっともこうした仕掛けは元のサービスやモノに力がなければ成立しない。外食産業ではやはり「味」が決め手になる。どんなに安くても味が伴わなければ客は入らない。「いきなり!ステーキ」は、ステーキの仕上げを客自身が行う。ほぼ表面だけ焼かれたレアの肉が熱々の鉄皿で提供され、卓上で客自身が好みの加減に焼き上げて調味を行う。
 調味料も、塩コショウから、醤油、わさび、おろしにんにく、からし、ステーキソースなどさまざま用意されている。しかも店内には「鉄皿の再加熱、遠慮なくお申し付けください」と掲出されていて、熱心なファンは肉汁の残った鉄皿を再加熱して、ライスとおろしにんにく、ステーキソースでガーリックライスを作ったりもするという。
 ペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長は、社内報でこう述べている。
「数十年前(中略)当時珍しかったファミレスは、食文化の大きな分岐点でもありました。(中略)かつて高嶺の花であった憧れの洋食が誰もが安易に食べられるようになり、ライフスタイルに入り込んできて、当たり前になりました。これと似た現象が我が『いきなりステーキ』(原文ママ)の出現により実現されようとしています」
 従来、日本人は「ハレ」の食べ物として肉と付き合ってきた。日常食──「ケ」としての肉食文化を創造・定着させようとする「いきなり!ステーキ」が次に繰り出す一手を想像するのも(客が勝手に開発したガーリックライス同様)、またひとつの食の楽しみである。
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