06/7/7海保博之
第6回「ビジュアル化で伝える」
●ビジュアル化とは
文書のビジュアル(視覚)化には、大きく、文字情報にかかわるものと、イメージ情報にかかわるものとの2つがある。一般には、ビジュアル化というと、絵や図表などのイメージ情報のほうを思い浮かべる。しかし、文字情報にかかわるビジュアル表現、つまり、文字形(フォント)やサイズ、表記の仕方、さらに、レイアウトも、文書のビジュアル化の要素として重要である。
●文字情報をビジュアル化する
「うらにわにはにわにわにはにはにわとりがいる」
こんな文章を読まされてはかなわない。せめて読点くらいはいれてほしい。
「うらにわにはにわ、にわにはには、にわとりがいる」
これでもまだ読みにくい。漢字仮名交じり文にしてみると、やっと落ち着く。
「裏庭には2羽、庭には2羽、鶏がいる」
文字情報のビジュアル化とは、このように、見て意味が読みとれるようにすることである。
前回、紹介したメリハリ表現もレイアウトにおけるビジュアル化の工夫の一つである。
●写真、絵、イラストを使う
以下は、もっぱらイメージ情報にかかわるビジュアル化の話である。最初は、写真、絵、イラストである。
この3つの共通点は、世の中にあるものをイメージとして伝えようとするところにある。
風邪のウイルスのおどろおどろしい顕微鏡写真を見せる。交通事故の生々しい写真をみせる。あるいは、それらを絵やイラストにして見せる。いずれも効果は抜群である。
しかし、この3つには、具体性という点で違いがある。写真のようにあまり現実を具体的に見せると、何が大事かを伝えてにくいというところがある。見るほうからすると情報過多になってしまうのである。逆に、多くの絵表示のように、あまりに抽象化したイラストで伝えようとすると、現実のイメージが伝わらなかったり歪んだりしてしまう恐れがある。
かくして、「適度に具体的なビジュアル化」が、とりわけ、絵やイラストでは最適表現ということになる。
ここで、「適度に具体的」とは次のようなことに配慮した表現である。
・伝えたいことがはっきりわかる
例 大きくする 囲う 色をつける
・全体も示す
例 全体を小さく、伝えたい部分を大きく
・細部情報は極力見せない
例 形状は示すが、その中は空白
・シンボル(約束で決めたもの)はできるで
きるだけ使わない
例 △や×も誤解されることがある
●図表を有効に使う
図表は、伝えたい内容に、実証的な論拠を付与するために使われる。小学校の高学年くらいから、図表の描き方、読み方は教えられるので、伝達手段としては至極便利である。
ただ、次のような点には注意する必要がある。
図表には情報が豊富過ぎるところがある。伝えたいことは、図表の一部なのに、それ以外の周辺的な情報も入れ込んで描くのが普通である。その冗長さが説得性にもつながるので悪いことではない。
しかしながら、その冗長さが伝えたことを隠してしまうノイズになってしまうことがある。これを防ぐには、一つは、適切なキャプション(図表のタイトル)をつけること、もう一つは、本文で言いたいことを述べる、最後は、伝えたい箇所を強調することである。
最後にもう一点。図表は、文字通り描くと数値の羅列や無味乾燥な棒や線になってしまう。正確な実証データの表示が生命の学術論文ならそれでよいが、子供にわかってもらいたい図表では、それでは見てもらえない。棒を人の姿で表示したり、スケール(目盛)を変えたり、色をつけたりして訴求力のある図表にする工夫も必要となる。
●図解は慎重に使う
図解は、描く人にとって実に難しい作業である。表現したことを精選し、それを図解の決まりごと(リテラシー)に従って表現するのは、どちらもそれなりの努力がいる。
最近は、パワーポイントが普及してきて、誰もが簡単に図解表現ができる環境になってきたののは、コミュニケーション環境としては結構なことである。さて、その図解表現のコツを2つだけ紹介しておく。
1) 論理的に考える習慣が必要
図解する前の構想の洗練の段階で、表現要素として何かあるか、それらの関係はどうなるのかを考えられる習慣をつけておかないと、図解表現は無理である。理工系的頭脳を持った人々が得意であるが、これからは誰もがそれなりにできなければならない。図解のリテラシーの基本を知る
2)図解の基本は、「囲む」「配置する」「線でつなぐ」の3つである。
構想の単位を囲み、それを紙面に配置して、
線でつなぐ。図解はこれにつきる。囲みを四角にするか円にするか、配置する場所は真ん中か上下左右どちらか、線は、矢印か点線か、といった表示上の細工は、それぞれの芸術的なセンスにかかっている。
●最後に
2つほど、蛇足を。
一つは、ビジュアル化は、ピンからキリまで巧さに段階がある。ここでの話はすべて、ピンのほうのビジュアル化についてである。
もうひとつ。今回だけは、あえて、絵や図表などビジュアル化の趣向を入れなかった。いかがであろうか。ビジュアル化に意をくだいたこれまでと比較して、ビジュアル化の威力を感じていただきたい。