はじめに
「To err is human」というように、人間のあらゆる機能にエラーはつきものである。そのエラーが生存にとって不要なものなら、5万年もの人類の進化の歴史の中で、エラーをもたらす機能は陶太されているはずであるが、脈々と生き残り続けてきたのは、エラーが生存戦略として不可欠だからとしか言いようがない。
エラーに内在する生存戦略とは、ポジティブ面とネガティブ面がある。ポジティブ面は、創造的生存戦略である。現状を打開し新たな世界を切り開くためには、エラーしながらのトライアルが必須である。
ネガティブな面は、人間の持つ限られた資源の有効活用を保証するために、当面不要な資源を節約する戦略である。これがもっぱら事故に関わってくる。
本稿では、こうした立場から、人間の頭の働きの中核をなす記憶のエラーについて考えてみる。
人間の記憶は、覚えること(、符号化、記銘)、覚えておくこと(保存、貯蔵)、そして、思い出すこと(検索、想起)の3つの局面がある。それぞれの局面でエラーが発生する。
本稿では、短期記憶と長期記憶のそれぞれについて、この3局面でのエラーを取りあげて、その防止策を提案する。