第8回「高度集中力要求社会」 2,000字程度
●農耕社会から高度情報化社会へ
農耕社会では、作物の成長や家畜の動きが仕事時間を支配していました。そこでは、一日、1週間、1月――単位の時間が主でした。
自然災害のとき以外では、秒、分単位とは無縁でした。
そんな社会でもっぱら必要とされたのは、低いレベルの集中力を天候や作物の成長などにまんべんなく配分し続けることでした。
しかし、今やスピードこそ命の高度情報化社会です。一瞬一瞬が勝負、1秒の油断が一生を決めるような社会になってきました。ここでは、一つ一つの仕事に、高いレベルの集中力を持続させることが要求されるようになってきました。高度な集中力を要求する社会の出現です。
●「高度集中力要求社会」ってどんなもの
コンピュータなくして高度情報化社会は成り立ちません。そのコンピュータが高度の集中力を要求するのです。農耕社会ならぬ新狩猟社会の出現のような感じです。常時緊張し、得物をしとめるために高度の集中力を発揮し続けないと生きていけなくなってきました。
こんなことを意識させる事件がありました。2005年に株の誤発注騒動です。まだ記憶に残っているかと思います。一瞬の入力ミスが、膨大な損害となって跳ね返ってきました。
あるいは、最近のオフィスでの仕事ぶりをみても、ほぼ全員がコンピュータ画面をみながら整然と、そしてかなり高い集中力を発揮し続けながら仕事をしているのが常です。
●集中力発揮にメリハリをつける
黙っていると、ハリ(張り)の部分が肥大してしまうのが、高度集中力要求社会です。これまでしばしば述べてきたように、集中力の発揮にはさまざまな限界があります。これを超えると、ミスの可能性が高まります。しかし、限界超えを自ら認識することは高度に集中力を発揮している状態では、かなり難しくなります。
そこで高度集中力要求社会での生き残り戦略として提案したいのが、メリハリのあるワークとライフのすすめです。
① ワークとライフのけじめをつける
テニス仲間で、試合中にいつも携帯電話がかかってきて、何やら長電話をする人がいます。ライフの中にワークが簡単に入りこめる時代になっただけに、ここは意図的に、ワークとライフのメリハリをつけるようにする必要があります。もちろん、ハリはワークで、メリはライフでとなります。
② 時間決めの休憩、休暇、定時帰宅
組織としてこうした配慮ができればいいのですが、それでも、身を守るためにはある程度は自分で心がける強さも必要です。
なお、短時間のパッシブ・レスト(昼ねなど)の工夫も結構、大事です。
③仕事の仕方にメリハリをつける
高度の集中を要求するメインの仕事の合間にサブ的な仕事(雑用)を適当に挿入するやり方です。それもメインがコンピュータということが多いので、サブはアナログ的なものにするのがコツです。雑談などができる雰囲気があればいうことなしですが、職場では、今ほとんどなくなってしまったのではないでしょうか。
なお、絶対に避けたいのが、e-メールですね。同じ画面でのサブの仕事は心理的にサブにならないだけでなく、用件によってはそれがメインになってしまう可能性があるからです。
④ 場所を変える
机をL字型にしておいて、メインとサブをする場所を変えるというものから、サブは部屋を変えたりするというものまで。さらには、
席をたっての一杯のコーヒもいいですね。これも強制的にタイマーでもセットしておくのもありです。
⑤ 目標を意識する
仕事は永遠ですが、その時々で大中小の目標があります。「いつまでに何をどこまで」
というものです。それを、たとえば、毎朝、仕事に入る前に意識するだけでも、かなり集中力の出し方にメリハリがつけられます。納期が近ければ、一層の頑張りをします。段取りをつける段階なら、幅広く集中力を展開することになります。
⑥ IT機器フリータイム、デイをもうける
携帯IT機器をいつも携帯するからこそ利便性が高いのですが、それが24時間の生活リスムのメリハリをなくしてしまいます。たとえば、夜9時過ぎ、日曜、休暇中は携帯IT機器からフリーになることもありです。それをまわりに宣言することで周りも協力してくれるようになればしめたものです。
⑦ もう一つの集中力発揮の領域を作る
メインと同じくらい集中力できるもう一つの領域、たとえば、趣味を持つことも、集中力の純度を高めます。ただ、疲弊しないような注意は絶対に必要ですが。