事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

原尞についてふたたび。

2023-05-13 | ミステリ

その1はこちら

ミステリ好きにとって、原尞の死にショックを受けていない人はいないと思う。

彼のことを嫌う人もいるだろうけどね。すかしてんじゃねーよとか。

彼の著作を読んでいない人の方が多いだろうけれど、レイモンド・チャンドラーの文体を日本語で成立させようとしたそれだけでうれしい。

もう一人いましたよね、チャンドラーの文体を取り込んだ作家は。いま、彼の超ベストセラー「街とその不確かな壁」を読んでいます。最高です。

チャンドラーはもちろん素晴らしいけれども、私立探偵という職業が絶対に成立しない日本で、沢崎という魅力的な存在を生み出してくれた原尞の才能を思う。

デビュー作「そして夜は甦る」は、文学賞に応募したわけでもなく、ここしかない、ここが好きだという早川書房への持ち込み原稿だったらしいです。編集者は驚愕しただろう。

これって、「蒼穹の昴」を台車で(大嘘)持ち込んだ浅田次郎とか、「姑獲鳥の夏」をいきなり講談社の編集部に送り込んだ京極夏彦とか以上。いやはや。

原尞に興味のある人は、まず「天使たちの探偵」から読んでもらえるのがいいのかなあ。いややっぱり奇跡の「そして夜は甦る」かしら。

コメント (4)
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追悼 原尞

2023-05-12 | ミステリ

毎朝、職場に届く新聞は読売新聞、朝日新聞、山形新聞。玄関から職員室に早出の技能士が運び、来客用のテーブルに一日置かれている。

翌朝、それらの新聞は事務室に移され、学校事務職員がお昼どきに熟読する。だからわたしの新聞から得る知識は一日遅れのことが多い。

今日もそうやって山形新聞、読売新聞の順に読み進める。朝日新聞は自宅で斜め読みしてるしね。

「うわっ」

思わず声が出る。原尞の死亡が報じられていたからだ。のっぽさんの訃報と並んでいたので、それがなかったらもっと大きな記事になっていただろう。おいおいもっと大きく扱ってくれよ。のっぽさんには悪いけれども。

わたしは原尞のファンだ。大ファンだ。彼の著作はすべて購入し(図書館で借りたことは一度もない)、耽溺してきた。といってもそれほど偉いわけではない。なにしろ原尞は寡作で有名。すべて羅列すると……

「そして夜は甦る」

「わたしが殺した少女」(直木賞受賞作)

「天使たちの探偵」(短篇集)

「さらば長き眠り」

「愚か者死すべし」

「それまでの明日」

これだけ。あとはエッセイ集。文章に徹底的にこだわるため、編集者泣かせではあったろう。

探偵沢崎のファーストネームも、電話応答サービスの女性との関係も、すべては闇に消える。新作の草稿ぐらいはあるだろうが、彼が出版を許すはずもない。

ファンに許されるのは、彼の著作を、ひたすらに読み返すことだけだ。そうします。にしても、へたる。もう沢崎の新作は読めないのだ。

ああもっと彼については語りたい。その2につづく

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「いけないⅡ」道尾秀介著 文藝春秋

2023-04-27 | ミステリ

前作の特集はこちら

短篇のおわりに写真が挿入されており、それまでの展開がひっくり返るシリーズ第2弾。今回も半分わかりませんでした(笑)。

ネットでチェックしたら、そりゃわかんないはず。祈る少女の〇の数を数えたりはしないよ普通。にしても面白かったなあ。続篇希望。きっとまたわかんないんだろうけど。

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マイベスト2022 読書篇その1 ミステリ

2023-03-17 | ミステリ

映画篇はこちら

つづいて読書篇。ミステリと非ミステリを分けるのはわたしだけかな。今回はミステリ篇。

1 「爆発物処理班の遭遇したスピン」佐藤究

2 「中野のお父さんの快刀乱麻」北村薫

3 「機龍警察 白骨街道」月村了衛

4 「同志少女よ 敵を撃て」逢坂冬馬

5 「捜査線上の夕映え」有栖川有栖

6 「いつまでもショパン」中山七里

7 「さよならに反する現象」乙一

8 「看守の流儀」城山真一

9 「栞と嘘の季節」米澤穂信

10 「invert Ⅱ 覗き窓の死角」相沢沙呼

……なんと佐藤究のV2だ。すごい人が出てきたんだなあ。非ミステリ篇につづく

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マイベスト2022 このミステリーがすごい!篇

2023-02-25 | ミステリ

2022年版はこちら

「このミステリーがすごい!」のランキングもそろそろ紹介してもいいかな。国内篇で読んでいたのは

第3位「捜査線上の夕映え」有栖川有栖著 文藝春秋

第6位「爆発物処理班の遭遇したスピン」佐藤究著 講談社

第7位「同志少女よ、敵を撃て」逢坂冬馬著 早川書房

第11位「此の世の果ての殺人」荒木あかね著 講談社

他に「invertⅡ」「時計屋探偵の冒険」「裂けた明日」「偽装同盟」「脱北航路」。1位の「爆弾」(呉勝浩)はいずれ“日本の警察”シリーズでやることになるでしょう。

問題は海外篇で

第2位「殺しへのライン」アンソニー・ホロヴィッツ著 創元推理文庫

しか読んでいないんですよ。ホロヴィッツのベストワン五連覇が阻まれた作品だけど、わたしにはこれまでの彼の作品のなかでいちばん面白かったけどな。文法を使ったタイトルはすぐに行き詰まるに決まってる、なんて独白も笑えたし。悠然とクリスティを踏襲するあたり、すごい。

うれしかったのは新潮文庫でドナルド・E・ウェストレイクの旧作が刊行され始めたこと。さっそく買わなくては。

必ず読むことになるのは

第5位「優等生は探偵に向かない」ホリー・ジャクソン著 創元推理文庫

で、これは前作の「自由研究には向かない殺人」を書店員にお願いしてすでに購入しているからです。

にしても、翻訳ミステリを読まなくなったなあ。っていうか中国や台湾のミステリをおれは待ち望んでいるんだけど。

国内興行収入篇につづく

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「裂けた明日」佐々木譲著 新潮社

2023-02-21 | ミステリ

「沈黙法廷」はこちら

と思えばこちらは内戦状態の日本を舞台にした逃走劇。外交センスのない保守政権が、同盟国アメリカは絶対に日本を攻撃しないと慢心した結果、わがまま放題のふるまいをしたら、あっという間に敗戦。多国籍軍の駐留を許すことになる。

それに反駁した“北”と呼ばれる盛岡政府(このネーミングはリアル)から逃れる母と娘。その逃亡を助ける70代の退職公務員。

東京に逃げ込むために、ありとあらゆる手を駆使する3人。スマホを徹底的に利用するあたりの展開もおみごとだ。福島や東京の地図を見ながらだともっと楽しめるはず。南武線はいまそういうことになってるのか。むかしは典型的な田舎の電車だったけどなあ。

静かな筆致だが、それだけにラストの叙情は必要だったか微妙。

あ、そうか。これも某西部劇のラストをいただいているんだ。

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「沈黙法廷」佐々木譲著 新潮社

2023-02-17 | ミステリ

「闇の聖域」はこちら

60代の、妻を亡くした孤独な男。社交的な彼は、友人たちを招いて自宅でパーティをよく開く。そのため、家事代行業の女性を雇い、準備や後片付けを依頼している。

彼は定期的にデリヘル嬢を呼ぶなど、まだ枯れてはいない。お風呂掃除をする代行業の女性の肩に彼はふれる。激しい拒絶に彼は驚く……

マッサージチェアに座った彼の絞殺体が発見される。警察は代行業の女性を逮捕する。しかし物的証拠が存在しない。

警察、検察、弁護士それぞれの動きが静かに語られる。近ごろ波乱万丈のお話が多かった佐々木譲の、こちらが本領なのだと思う。

かたくなに意思表示をしない容疑者は、果たして雇い主を殺したのか。

おっとWOWOWでドラマ化されているのか。主演は永作博美。おお、こちらも観なくては。

「裂けた明日」につづく

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「池袋ウエストゲートパーク ペットショップ無惨」石田衣良著 文藝春秋

2023-02-10 | ミステリ

17作目「炎上フェニックス」はこちら

西口公園シリーズも18作目。フルーツショップの店員マコトと、池袋に君臨するタカシの物語。時事ネタを積極的に取り入れ、マコトのフットワークとタカシの組織力でトラブルを解決していく。

ワンパターンといえばそのとおりだが、これだけ続けることができる石田の筆力もすごい。

もちろんイメージキャストはTBSのドラマだった長瀬智也と窪塚洋介

今回のメインは、書名にもなっているペットショップをあつかった中篇。ペット業界に対する石田の怒りが叩きつけられている。気の弱い読者は途中でギブアップしてしまうかも。

ペットショップで子猫を買い、以来同居しているわたしは、作中の獣医の指摘が痛くて痛くて。

「プレミアムだかなんだか知らないが、1年も2年も平気でもつようなものを、自分の赤ん坊にたべさせる親はいないでしょう。明日から手づくりのごはんをあげてください。なあに毎日同じものでいいんだから、慣れたら簡単だ。帰りに受付でワンちゃんのレシピを受け取るように。体重別で食べる量が決まっているので、それだけは厳重に守るように」

すみませんキャットフードを毎日与えています。

でも、わたしのしょっぱいおつまみも食べさせて17年。うちの老猫はそれでも元気です。っていうか、わたしがホッケを食べているときにこいつはタラを食べています。お互いに白身魚が好きなのはいいにしても、お前はいいもの食べ過ぎじゃないのか。しかもト一屋(地元のスーパー)のを。

「神の呪われた子」につづく

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「帝国の弔砲」 佐々木譲著 文藝春秋

2023-01-24 | ミステリ

抵抗都市」「偽装同盟」と同様に、日露戦争においてロシアが勝っていた世界を描く歴史改変もの。

ある秘密をかかえた男が、内縁の妻と静かに暮らしている。男へ、ある“指令”が届き、男は行動を開始する。彼は潜在的工作員、いわゆるスリーパーだったのだ。

男=小條(こじょう)に届いたのは、ある政治家を暗殺しろというものだった。なにごとかを察した妻は「いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていた」と嘆く。

暗殺までのクールな展開と、小條の来し方を描くそれ以降ではまるで違う小説のようだ。この転調は計算されたものなんだろうか。

父親とともにシベリアに入植、鉄道技士となり、しかし徴兵されて最前線に送られ、そして革命が勃発する。

ありとあらゆる苦難が彼に襲いかかり、そして赤軍は……

苦難の連続だからこそ、ラストのツイストが効く。さすが佐々木譲。うまい。

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「忍者に結婚は難しい」 横関大著 講談社

2022-12-16 | ミステリ

甲賀の末裔の女性と、伊賀の下忍が、お互いを忍者と知らずに結婚。宿敵同士であることもだから意識していない。しかし関係は次第に醒めていき、離婚寸前の状態にある。確かに、忍者に結婚は難しいのかも。

あのぉ、でもこの設定って、泥棒の娘と警察一家の長男が結婚してトラブル続出……「ルパンの娘」といっしょじゃないですか横関さん(笑)

まあ、そう指摘されるのは覚悟の上でしょう。妻が壮絶な能力者で、夫が組織の一員というところまでいっしょなんですから。一種の変奏曲だと。

で、この変奏曲が実はめちゃめちゃに面白かったのである。

甲賀と伊賀の忍者としてのありようが対照的で、甲賀は新しい武器に貪欲的だけれど、伊賀はひたすらに保守的。

「ダサくない?」

でも数的には伊賀の方が圧倒的。伊賀が徳川方についたことがその背景にあり、それってきっと史実なんでしょう。

……ここまで来て誤解されているかもと気づく。これ、時代小説じゃなくて現代のラブコメです。え、さっそくフジテレビがドラマ化?

とするとヒロインの蛍は誰が演じるのかな……菜々緒かあ!亭主は「ラジエーションハウス」の鈴木伸之。でかい夫婦ってことね。

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