その125「教場」「教場Ⅱ」はこちら。
圧倒的な文系社会である警察で、東京理科大を出た服藤(はらふじ)氏は警視庁科学捜査研究所に勤務する。科捜研の男である。
そこで彼はオウム真理教が起こした地下鉄サリン事件をはじめ、ルーシー・ブラックマン殺人事件、東電OL殺人事件、和歌山カレー事件などに遭遇。警視庁科学捜査官第1号となる。これら各事件の背景はまことに興味深い。
ただし、服藤氏は組織の中で次第にはじき出されていく……。公務員の、特に警察という世界の偏狭さと保守性がよくあらわれている。もっとも、もうちょっとうまく立ち回れなかったかなあと薄汚い公務員であるわたしなどは思ってしまったのだけれど。
その127「琉球警察」につづく。
その124「暴虎の牙」はこちら。
長岡弘樹(山形出身ですよ)の原作を特集したとき、映像化するなら主演は木村拓哉で、と提案したら、なんとフジテレビが実現してくれました。
「風間公親(かざまきみちか)だ」
義眼を不気味に光らせ、警察学校の生徒たちを一瞬にして精神的に制圧する鬼教官。ⅠとⅡを連続して見て、このキャスティングは大正解だと感じ入った。キムタク、すげえよ。
そして、木村にとって風間という役柄を経過したうえで、さまざまな役をこれから演じることができるのだし、こちらも風間を演じた(そしておそらくこれからも演じ続ける)キムタクを堪能することができるのだ。それほどの出来。
Ⅰにおける生徒たちは工藤阿須加(彼もいい)、大島優子、川口春奈(近ごろはなんにでも出ている印象)、葵わかな、林遣都。
Ⅱの生徒は上白石萌歌、矢本悠馬(なんにでも出ていますアゲイン)。
教場の職員は校長に小日向文世、教官にわたしの大好きな佐藤仁美。
原作もそうだったけれど、ここまでわけありの生徒がそろうって風間教場ってどんなとこ(笑)。しかしわたしが好きだった卒業アルバムのエピソードが描かれなかったのはなぜだろう。まあ、あれがなくても盛大に泣かせてはくれたのですが。
脚本は君塚良一。彼の作品の中でも、「踊る大捜査線」にテイストは近い。笑いの要素はほとんど排除されてはいるけれども。
すばらしいドラマ。木村拓哉を応援してきてよかった。「教場Ⅲ」期待してます。
「警視庁科学捜査官」につづく。
その122「隠蔽捜査8 清明」はこちら。
横山秀夫のミステリを積極的に映像化しているWOWOW製作。事実上の横山のデビュー作である「ルパンの消息」を。
実は横山自身がこの原作が失敗作であることは広言していて、だから現在はリライトしたものが決定版になっている。
三億円事件の忠実な再現からスタート。視聴者にとっては、犯人の特徴的な声で誰が演じているかはまるわかり。でも捜査陣は犯人を挙げることはできず、事件は迷宮入り。担当していた捜査一課の溝呂木(上川隆也)は辞表を上司(長塚京三)に提出するが、所轄で頭を冷やしてこい、と慰留される。
時は流れ(溝呂木のネクタイの太さであらわすあたりはうまい)、警察に15年前に起きた高校教師の自殺事件は、実は他殺だったという通報が入り、異例なことに所轄の刑事である溝呂木が捜査の指揮を執ることになる。激高する本庁の刑事たち……
この、人事をめぐる男たちの右往左往は横山秀夫お得意のものだが、吹越満や津田寛治などのキャストが味があるのでそのあたりですでに楽しめます。彼らが壮絶に反目しあいながら、事件の真相に近づいていくが、同時に三億円事件との関連が……
ドラマの部分はかなり面白いんだけど、やはり肝心のミステリの部分はちょっと弱いかも。その偶然はあまりにも。
出演は他に岡田義徳、新井浩文、宮地真緒、羽田美智子、そして遠藤憲一。お気に入りの中村靖日があいかわらずいい感じ。
その124「暴虎の牙」につづく。
その121「雪に撃つ」はこちら。
隠蔽捜査シリーズ最新作。竜崎がついに大森署から神奈川県警刑事部長として異動。懲罰人事が終わったということ。
警視庁(とはくどいようだけれども東京都警察本部のこと)と神奈川県警は仲が悪いというのが通説。この作品もそのあたりを強調している。その原因は、警視庁の側がスケールの違いもあって神奈川県警を軽侮しているのと、神奈川がそれに過剰に反応している的な。
となれば、連携が悪いことを利用して狛江あたりで事件を起こし、すぐに川崎に向かえば逃げ切れる可能性は高まるのではないか。
この小説では、東京都町田市の川崎側に(失礼ながら)盲腸のように突起したエリアでの殺人事件。確かに、地図で見ると盲腸っぽい。ほんとに失礼。
町田だから警視庁の管轄だが、警視庁刑事部長は竜崎と因縁浅からぬ伊丹なので、共同で捜査に当たることになる。警視庁には警視庁の、神奈川県警には神奈川県警の強み(まず、事件の関係者が日本人か外国人かと瞬時に思い至る)と弱みがあるあたり、日本の警察を考えるうえで参考になります。
加えて、警察OBという存在がなかなか剣呑で面白い。退官すれば、現役のときの職位は関係ない……わけではないが、微妙に違った上下関係が新たに構築されるあたり、これまた警察という組織の面白さだ。
華僑にも世代間の断絶があるとされるあたり、今野敏には、なかなか優秀なディープスロートがいるようです。例によって時代劇の要素を大量にぶちこんで、このシリーズはもっと続くでしょう。にしても今野敏は多作ですねえ……。
その123「ルパンの消息」につづく。
その119「新宿鮫11 暗約領域」はこちら。
深町秋生という作家は、山形県の期待の星です。
南陽市出身で山辺町在住。ミステリ評論家の池上冬樹(この人も山形在住)が世話人になっている講座を受講。そのうえあの専修大学出身とくれば応援しないわけにはいかない(笑)。
ドラマ化された八神瑛子シリーズ(彼女を演じたのは米倉涼子)や、中島哲也が監督し役所広司が主演の「渇き」の原作「果てしなき渇き」が有名だけれど、わたしはどっちも読んでなくて(どこが応援しているんだろう)、戦後まもなくの米軍占領下を舞台にした「猫に知られるなかれ」や、山形が舞台の女性探偵の日常が渋い「探偵は女手ひとつ」だけ。しかし両方ともとても面白かった。
さて、紹介する「地獄の犬たち」「煉獄の獅子たち」は、深町のメインストリームだというバイオレンスもの。耳を握って背負い投げをかけたので耳が引きちぎれるとか、えぐい描写がたっぷり。
この2作はつながっていて、煉獄は地獄の前日譚になっている。一種の潜入捜査官もの。組対部の刑事がやくざとして殺人まで行うという設定は強引だけれども、その組織のトップが実は……という展開が待っているのでむしろ自然に思える。
意外なほど色っぽい場面はなくて、やくざってストイックなのかと思えるほど(まさかね)。
しかし登場する女性たちが魅力的なのだ。プロの殺人者として、秘部にGPS発信機をしこんでいるとか、整体師のおばさんが、クールに復讐を成し遂げるとか。
もっとも魅力的なのが、“敵”であるはずの組織のトップ十朱。シリーズ化して……無理か、無理だよな、あのラストじゃ(+_+)
女性にはおよそすすめられる作品ではありませんが、深町秋生という名前はおぼえておいてくださいね。ベストセラー作家になってもらい、住民税を彼にたくさん払ってもらおう。
その121「雪に撃つ」につづく。
その118「風間教場」はこちら。
シリーズ8年ぶりの新作。信頼する上司、桃井が殉職し、恋人の晶とも別れ、ほとんど孤立無援の鮫島が、次第に別のチームを形成していく過程が静かに描かれる。
そのなかでも、警察の正義を信じ、女性が低く見られる風潮に逆らい続ける女性課長が渋い。
鮫島のセリフも、これまでになく礼儀正しく(まあ、ヤクザ相手だとちょっと違うが)、あるべき公務員像、あるべき社会人像というものを大沢在昌は鮫島を通じて描きたかったのかなと。
義理人情に厚いヤクザが瞬時に豹変するあたりの凄みも同時に。ラストで、チャンドラーの某有名作品が引用されておしゃれな後味も。
その120「地獄の犬たち&煉獄の獅子たち」につづく。
その117「抵抗都市」はこちら。
地元作家、長岡弘樹の教場シリーズ4作目。初の長篇、ということになっているけれどもエピソード集のような形になっているのでシリーズの基調音は守られている。
わたしはよく小説を勝手にキャスティングして楽しむ能天気野郎だが、まさかほんとに主人公の風間を木村拓哉が演じてくれるとは思わなかった。的中して得意得意。
で、そのフジテレビ版は見ていないのでそのうちにDVD化されたら特集します。
さて「風間教場」。
「君には(警察学校を)やめてもらう」
が風間の決まり文句。しかしこの作品ではこの言葉が風間に向けて発せられるのだ。正式に入校した生徒が一人でも辞めたらその時点で退職だと校長は告げる。
シリーズを追うごとに風間がやさしくなっているのは誰でも感じたと思う。しかし天使と悪魔が共存するような彼に「やめろ」と言わせないのはきついのではないか……
そうきたかあ。長篇にしなければならないことがラストで判明。しかしこのままの幕引きは小学館が許さないだろう(笑)
その119「新宿鮫11 暗約領域」はこちら。