地元庄内の、最終日の最終上映で観る。しまったあ!思いきり後悔する。もっと早くに観ておくべきだったのだ。
「たそがれ清兵衛」につづき、傑作でがんす。
基本的に、わたしは間男のお話が苦手である(得意な人、というのもいかがなものか)。おなじみ海坂藩(うなさかはん=庄内藩がモデルになっている)のお毒味役(=つまらない宮仕えのシンボル)が、毒のために視力を失い、家禄を守るために妻は不貞を……あーやっぱりちょっとつらい。しかしそのお毒味役にキムタク、妻に被害者っぽい顔の壇れい(それにしてもこの人のおしりはまんまるですねえ!)を配して“不貞=裏切り”が前面に出ないように計算されている。
キムタクの演技が前半あまりに軽いのでどうなることかと思ったが、それはこの計算にもとづいているのだろう。あくまで明るく、そして妻に少しよりかかっている主人公に訪れた悲劇だからこそ、ドラマとしてはずむ。
アクションものとしても一級。ある瞬間まで一度も剣を使わなかった主人公が、いきなり素振りをはじめたシーンは凄みがあった。さすが剣道有段者キムタクだ。新国劇出身の緒形拳との立ち会いなど、本物を感じさせる。
しかしこの映画でもっとも光り輝いているのは中間(ちゅうげん)役の笹野高史だ。ひねくれた言い方になるけれど、腹の中で考えていることと顔の表情に微妙な差があることを自然に観客にさとらせるアクロバットをきめている。彼の差配で、ラストに観客たちが「こうなってほしい」「こうなるであろう」という期待に何のひねりもなく応え、思いきり泣かせてくれる。王道の娯楽映画。
山田洋次は「幸福の黄色いハンカチ」(藤沢周平の「橋ものがたり」は、この作品の変奏曲)をもう一度撮りたかったのか。だったら早く言ってくれなきゃあ。知ってたら初日に観に行ったのに。