19世紀末のロンドン。若き奇術師アンジャー(ヒュー・ジャックマン)とボーデン(クリスチャン・ベール)は、中堅どころの奇術師ミルトン(マイケル・ケイン)の元で修行をしていた。
しかしある日、アンジャーの妻で助手のジュリアが水中脱出に失敗し死亡。事故の原因はボーデンの結んだロープが外れなかったことだった。これを機にアンジャーは復讐鬼へと変貌し、2人は血を流す争いを繰り返すことになる。
その後、結婚し幸せな日々を送るボーデンは、新しいマジック「瞬間移動」を披露するのだが…。
マイケル・ケインが冒頭で、ある少女に告げている。
「一流のマジックは、タネも仕掛けもないことを観客に確認させる“プレッジ”、次にパフォーマンスを展開させる“ターン”、そしてなにより観客の予想を超える“プレステージ(偉業)”で成立するんだよ。」
説明しながら彼が行うマジックは、少女に鳥かごを見せ(プレッジ)、小鳥をそのなかに入れてその鳥かごを一気にたたみ(ターン)、心配する彼女に無事な小鳥を見せて感激させる(プレステージ)……。
このマジックは劇中で何度かくりかえされる。復讐の連鎖から抜けられない二人のマジシャンの行く末を、小鳥がマジでシンボライズしているのだ。
いかん。どう語ってもネタバレになるような気がする。上映前に監督の「結末を知らせないでください」というメッセージが出るし、確かにあのひっかけを観る前に知ってしまったら不幸かもしれない。ただ、最も大きなひっかけには観客の多くが途中で気づくことだろうと思う。問題は、もう一発でかいトリックがあってこれが多くの映画ファンの逆鱗に触れたらしいのだ。あれは卑怯だろ、と。
しかしよく考えるとあのトリックについては、いちばん最初のシーン(数多くのシルクハットが野原にころがっている)から提示されているのだ。つまり“プレッジ”は行われているわけ。ターンにあたる復讐合戦は確かに陰惨だが、要するにマジシャンという奇矯な人種である彼らは、もう復讐がどうしたとかいう動機すら見失い、お互いのタネをいかに暴くかに盲目的に固執しているにすぎない。ウチの職場のマジシャン教師もだいぶ変わっているしね。
観客の多くが怒ったことから、プレステージに欠陥があったと思われるようだけれど、しかし映画館を出てから「……あ、そうか!だから水中脱出のときの結び目をあいつは『おぼえてな』かったんだ。……あのマジックを限定100回しかやれないのはこんな理由か!」という具合に何度も納得できるお得な一本なのである。
「メメント」のクリストファー・ノーランが“スクリーンのなかで行われるマジックは誰も不思議だとは思わない”ことまで計算した映画。ぜひ、チャレンジを。