ある特定の人物の視点でストーリーが徹底して描かれ、しかもその人物の“気持ち”はほとんど描かれない……ハードボイルドのルールを遵守して描かれるススキノの黒服の物語。
かつて「X橋附近」(未読)で、日本のハードボイルド小説の嚆矢と絶讃された高城高。しかし彼はその後、北海道新聞社に入社し(つまりデビュー作は学生時代に書かれている!)、記者として生きることを選択する。そして「函館水上警察」シリーズでカムバック。つづいて、彼にとってなじみの世界であるススキノを舞台に、夜の世界が描かれる。
グランドキャバレーやクラブという世界に昏いし、一本150万でボトルを提供するという世界を知ろうとも思わないのだが(なにしろわたしがいつも飲んでいるのは地元のスーパーで売っている799円スコッチ。おいしいよ)、ホステスのスカウト合戦が、まさしくプロ野球のスカウティングとそっくりなのにまず驚く。
他店の売れっ子にそっと接触し、バンス(前借り)や保証などの条件をつめ、その店の雰囲気やチームワークを考え、そして一気にかっさらう。まさしく人買いの世界。
時代背景はバブル期。もう、歴史の彼方になってしまったあの時期を高城は綿密に描いていく。バブルがはじけ、シンプルなキャバクラに客を奪われていく業界内闘争や、不動産取引に水商売が浸食されていくあたり、うまい。
そして、そんななかでもしたたかに生き抜く女性たちが描かれ、味わいは深いのでした。ああわたしも一度はバブル期にクラブでドンペリのピンクを飲んでみたかった(嘘)。