わたしの娘は、映画の登場人物が“なにかになりすます”ストーリーがダメだ。正体がばれるという緊張感に耐えきれないのだろう。「インファナル・アフェア」を強引に見せたら虐待かしら。
父親であるわたしはどうかというと、悪徳刑事ものがダメだ。正義を守るために必要な作業かもしれないが、「それ、ダメでしょ」と。わたしが地方公務員として清廉だからではなく、そんなめんどくさいことをやっている方がつらくね?と思うほど根性なしだから。わたしに汚職はできません。
この小説は「犬の力」「ザ・カルテル」のウィンズロウが放つ、正義とはなんなのかというお話。冒頭に殉職した警官の名前が掲載されていて、それがとんでもない量なのにまず驚く。現場で行われていることの苛烈さの象徴。
ニューヨーク市警のエリート捜査官のマローン。彼がFBIに収監されているシーンから開始。救いのない話が展開される。犯罪者、FBI、上司とのやりとりなど「犬の力」「ザ・カルテル」の作者だけあって現実が投影されている(かなりリサーチしている模様)。
マローンは次第に悪に手を染め、しかし同時に悪を懲らしめようともしている。その相克が破綻を呼ぶ……
ラストがいいんですよ。これはぜひとも読んでいただかなくては。もちろん、例によって体調のいいとき限定。吹き飛ばされてしまうからね。しかしもうウィンズロウは、ニール・ケアリーものの繊細な世界には戻ってくれないんだろうなあ。