創作日記&作品集

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物語のかけら②

2006-06-21 20:57:09 | 創作日記
優(ゆう)。男か女か分からない名前。誰が「優」と名前をつけたか優は知らない。優も聞かない。物心ついた時から、優と呼ばれていた。優は誰とも遊ばない子供だった。いつも部屋の隅っこに一人でいた。隠れ蓑をサーと被ると誰にも見えなくなった。4年生の時、施設に優をいじめる5年生の男子がやって来た。人のいないところで暴力をふるった。顔を殴らずに腹を殴った。プロレスの真似をして首や関節を絞めた。男子がいじめに飽きると優は何事もなかったように自分の部屋に戻った。泣いたり、逃げたりしなかった。興奮すると吃る女の子がいた。男子がそれをからかって真似をした。とてもよく似ていた。周りの子供らもみんな笑った。笑いは次の一瞬、凍りついた。後ろ手にテーブルの上に置いていた男子の手を錐(きり)がまっすぐ貫いたからだった。激痛に男子は振り返った。優はすずしい目で彼を見ていた。そして、くるりと背を向け、ゆっくりと部屋を出て行った。それ以来誰も優にかまわなくなった。